・・・と連絡をとって、実際の運動と結びつこうとしたり、内では全部が結束して「獄内待遇改善」の要求を提出しようとしているそうだ。 彼奴等がわれ/\をひッつかんで、何処へ押しこもうとも、われ/\は自分たちの活動を瞬時の間だって止めようとはしていな・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・いまの私の身分には、これ位の待遇が、相応しているのかも知れない、と無理矢理、自分に思い込ませて、トランクの底からペン、インク、原稿用紙などを取り出した。 十年ぶりの余裕は、このような結果であった。けれども、この悲しさも、私の宿命の中に規・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・それからは頗る慇懃に待遇した。 さて一切の用件を話して聞せた。 それを聞いたチルナウエルには、なぜそんな事をさせられるのだかは、分からないが、どんな事をすれば好いと云うことだけは、すっかり飲み込めた。チルナウエルも気の利いた男でポル・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・入院中に受けた待遇についてなんらの判断も記憶も持ち得ないし、また帰宅しても人間に何事も話す事のできないような患者に忠実親切な治療を施すという事があたりまえではあるがなんとなく美しい事のように思われた。 退院後もしばらく薬をもらっていた。・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・そろそろもうアイスクリームの冷たくないのに屈辱の余味を帯びた憤懣を感じ、タオルの偶然な差別待遇にさえ世に捨てられでもしたような悲しみと憤りを覚えることの可能な年齢に近づきつつあるのかもしれない。 こんな事をうかうか考えている自分を発見す・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・どういう良い待遇を受けて来たのだろうというのが問題になった。親の乳でも飲んだためだろうという説もあった。 夏も盛りになって、夕方になると皆が庭へ出た。三毛もきっとついて来た。かつてのら猫の遊び場所であったつつじの根もとの少しくぼんだ所は・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・近頃英国の某新聞で陸海軍人の待遇を論じたのについて某科学雑誌記者は次のような事を云っている。「科学研究の重要な事は誰も認めているが何かの場合にはとかく不遇になりがちである。これはつまり国務大臣や宮中の人が科学に縁のない人ばかりだからであろう・・・ 寺田寅彦 「話の種」
・・・そしてそれらの社員は単に寄書家という格で外様大名のような待遇を受けるのでなくて、その社の仕事の全体に参与しかつ責任を負うものでなくてはならない。これらの記者たちはそれぞれ専門の方面で一般のために有益であるべきあらゆる重要事項の正確な報道紹介・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・それでも戦地で死んだぐらいの待遇はしてくれましたよ。戦地へやらずに殺したのは惜しいもんだとかいうでね。自分の忰を賞めるのは可笑しうがすけれど、出来たにゃ出来た。入営中の勉強っていうものが大したもんで、尤も破格の昇進もしました。それがお前さん・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・自分が世間から受ける待遇や、一般から蒙る評価には、案外な点もあるいはあるといわれるかも知れないが、自分が如何にしてこんな人間に出来上ったかという径路や因果や変化については、善悪にかかわらず不思議を挟む余地がちっともない。ただかくの如く生れ、・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
出典:青空文庫