・・・しかしそのつもりで後代の風俗絵巻物でも細かに研究してみたらやはり各時代に同様な現象を発見するのではないかとも想像される。 鳥羽僧正の鳥獣戯画なども当時のスポーツやいろいろの享楽生活のカリカチュアと思って見ればこの僧正はやはり一種のカメラ・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・木導が春風景曲第一の句なり。後代手本たるべしとて褒美に「かげろふいさむ花の糸口」という脇して送られたり。平句同前なり。歌に景曲は見様体に属すと定家卿もの給うなり。寂蓮の急雨定頼卿の宇治の網代木これ見様体の歌なり。とあり。景気といい景・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・芸術家としての鴎外が興津彌五右衛門の境地にのみとどまり得ないで、一年ののちには更に社会的に、その社会を客観する意味で歴史的に、殉死というテーマをくりかえし発展させて省察している点は、後代からも関心をもって観察せられるべきであろうと思う。・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ かえりみれば、これまで私たち日本人が教えこまれていた日本の歴史は、むきになって強調されていた上代の神話と、後代の内国戦の物語、近代日本の支那・ロシア・朝鮮・満州などにおける侵略戦争とその植民地化との物語であった。その時代時代の軍事上の・・・ 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
・・・私たちは自分たちの世代において文化を堕落させたという責を、愛する後代から指摘されることは欲していないのである。〔一九四一年五月〕 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・を筆頭として諸家の随筆が売り出されたが、これは寧ろ当時の文学の衰弱的徴候として後代は着目する性質のものなのである。 三 以上のような諸現象が、一部の作家の間に文学の危期としての警戒を呼び醒したのは極めて当然・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 彼女から後代の作家は男であると女であるとにかかわらず、荒い大きい濤にうたれて、一葉が「たけくらべ」で輝やかしている露のきらめきの美しさとはおのずから別種のものとなっているのである。 この全集に、未発表のものが多く集められるというの・・・ 宮本百合子 「人生の風情」
・・・過去の芸術上の美は、改めた目で見直され、改めて美しさのそれぞれの典型として歴史の中に評価され直さなければ、後代の生活感覚の中にそのまま共感され難いところがある。ところが、ブルーノ・タウトの「日本美の再発見」の桂の離宮の美しさの描写にしろ、外・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ 第二は、結婚生活を、全く当事者間の箇人的結合と云う点にだけ強調して、互の事業を完成させる為、又は、互の精神的肉体的欠点を後代に遺伝させない為、全然子供を期待しないもの。 最後に、非常な下層民で、生活の機能、人格価値などに対してはま・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・スが、ジュピターによって地球の骨といわれたコーカサスの山にしばりつけられ、日毎新しくなる肝臓を日毎にコーカサスの禿鷹についばまれて永遠に苦しみつづけなければならない罰を蒙った、というこの物語の結末を、後代からは叡智の選手のように見られたギリ・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
出典:青空文庫