・・・どうか又熊掌にさえ飽き足りる程、富裕にもして下さいますな。 どうか採桑の農婦すら嫌うようにして下さいますな。どうか又後宮の麗人さえ愛するようにもして下さいますな。 どうか菽麦すら弁ぜぬ程、愚昧にして下さいますな。どうか又雲気さえ察す・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・一体妃たちは私たちよりほかに男の足ぶみの出来ない後宮にいるのですからそんな事の出来る訣はないのですがね。それでも月々子を生む妃があるのだから驚きます。 ――誰か忍んで来る男があるのじゃありませんか。 ――私も始めはそう思ったのです。・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・いわば近代的な後宮の女性めいた関係なのであるから。私たちの周囲で、女同士の友情を信じてない言葉がいわれる場合について考える時それはあながち直接の対象として男を置いてのことではないと見られる。遙かにそれより複雑の度を増して来た上での現象で、あ・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
出典:青空文庫