・・・ 店先へ立ち迎えて見ると、客は察しに違わぬ金之助で、今日は紺の縞羅紗の背広に筵織りのズボン、鳥打帽子を片手に、お光の請ずるまま座敷へ通ったが、後見送った若衆の為さんは、忌々しそうに舌打ち一つ、手拭肩にプイと銭湯へ出て行くのであった。・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・てるの老父母は、この勘蔵にてるをめあわせ、末永く弟の後見をさせたい腹であった。てるも、勘蔵も、両親のその計画にうすうす感づいてはいたが、けれども、お互いに、いやでなかった。十九歳になった。てるも追々お嫁さんになれるとしごろになったのだから、・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ 夫婦の間の財産処理について、また子供らの後見者として妻、母の権限がひろくなろうとしている。孤独な母、妻である多くの婦人は、これによっていくらか家族の間における立場を改善されるであろう。しかし、財産とは、今日、何であるだろう。金とは? ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・青森の大金持の男、信者、娘一人、後とりの後見もして欲しいから学問があって、人物の出来た人、 そこで、結婚ブローカーがあって、「それじゃいい人がありますっていうんですね、司教の息子それじゃ立派なもんだろうって云うんで先は承諾。親父は職・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・あとにのこった若い殿の後見をしながら段々年頃になって行く大切の三人の片はつけずばならず、末の長い弟君にも出来るだけ出世をさせたしと年をとってよけいに苦労性になった後室はそのことばっかりを苦にやんで居る。「いっそ一思いに三人を京にのぼせよ・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ところが話しているうちに、女の方が今度新たな家を建てようとする人で、男はただ後見役の位置にいることが分った。四十がらみのその女は、「ずっと下町にいるから当分淋しくって困るかも知れないと思いますけれど、私も伜も体が丈夫な方じゃないから、一・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫