・・・ 椿岳は晩年には『徒然草』を好んで、しばしば『徒然草』を画題とした。堀田伯爵のために描いた『徒然草』の貼交ぜ屏風一双は椿岳晩年の作として傑作の中に数うべきものであって、その下画らしいものが先年の椿岳展覧会にも二、三枚見えた。依田学海翁の・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・先生極真面目な男なので、俳句なぞは薄生意気な不良老年の玩物だと思っており、小説稗史などを読むことは罪悪の如く考えており、徒然草をさえ、余り良いものじゃない、と評したというほどだから、随分退屈な旅だったろうが、それでもまだしも仕合せな事には少・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・ついでながら徒然草に、馬鹿の真似をする奴は馬鹿である。気違いの真似だと言って電柱によじのぼったりする奴は気違いである、聖人賢者の真似をして、したり顔に腕組みなんかしている奴は、やっぱり本当の聖人賢者である、なんて、いやな事が書かれてあったが・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・『徒然草』の「あやめふく頃」で思い出すのはベルリンに住んではじめての聖霊降臨祭の日に近所の家々の入口の軒に白樺の折枝を挿すのを見て、不思議なことだと思って二、三の人に聞いてみたが、どうした由来によるものか分らなかった。ただ何となく軒端に・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
『文学』の編輯者から『徒然草』についての「鑑賞と批評」に関して何か述べよという試問を受けた。自分の国文学の素養はようやく中学卒業程度である。何か述べるとすれば中学校でこの本を教わった時の想い出話か、それを今日読み返してみ・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・このププホルと『徒然草』のいわゆるボロボロとを並べて考えてみるとだれでもちょっと微笑を禁じ難いであろう。(胡弓 シナのフキン。朝鮮のコクン。日本のコキュー。モハメダンのギゲ。古代フランスのギグ。今のドイツのガイゲ。アフリカのゴゲ。いずれ・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
・・・今の生徒は『徒然草』や『大鏡』などをぶっ通しに読まされた時代の「こく」のある退屈さを知らない代りに、頭に沁みる何物も得られないかもしれない。 自分等が商売がら何よりも眼につくのは物理学の中等教科書の内容である。限られた紙幅の中に規定さ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・のは今度図書館に行った時によんで見ようと思った、兼好法師のがあったんで「徒然草」がよみたくなってしまった。本箱から引ずり出してよみはじめたけれども分らないとこが沢山あるんでノートに書きぬきながらよんで行く、手間ばかりかかる。 気まかせに・・・ 宮本百合子 「日記」
徒然草に最初の仏はどうして出来たかと問われて困ったというような話があった。子供に物を問われて困ることはたびたびである。中にも宗教上のことには、答に窮することが多い。しかしそれを拒んで答えずにしまうのは、ほとんどそれはうそだ・・・ 森鴎外 「寒山拾得縁起」
出典:青空文庫