・・・ 四 妹の百代、下の悌、忠一、又従兄の篤介、陽子まで加ったのでふき子の居間は満員であった。円卓子を中心にして、奥の箪笥の前にふき子が例の緑色椅子にいる。忠一が持って来たクラシックを熱心に繰っていた。となりに、百・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・東京から、その家の持ち主の妻や子供達や、従兄従妹などという活発な眷属がなだれ込んで来て部屋部屋を満した。永い眠りから醒まされて、夏の朝夕一しお黒い柱の艶を増すような家の間で、華やかな食慾の競技会がある。稚い恋も行われる。色彩ある生活の背景と・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・女神の衣の襞がアテネの岸を洗う波とどうなったのか、至極混雑して、やがては従兄の援軍で、どうにか三分の二までやり、遂そのまま降参したことがあります。 父も父だと云ってしまえばそれきりのようですけれども、私にとっては楽しい記憶の一つとしての・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・ほかの従兄弟らは、依然として土曜日になると樺の鞭をくって泣き声を立てつづけたが、ゴーリキイの抵抗は遂に祖父さんを屈服させることが出来たのであった。 アレキサンドル二世が形式的な農奴解放を行ったのは一八六一年であった。ゴーリキイが生れた時・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ある日甚五郎の従兄佐橋源太夫が浜松の館に出頭して嘆願した。それは遠くもない田舎に、甚五郎が隠れているのが知れたので、助命を願いに出たのである。源太夫はこういう話をした。甚五郎は鷺を撃つとき蜂谷と賭をした。蜂谷は身につけているものを何なりとも・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫