三四日、風邪で臥ていた従妹が、きょうは起きて、赤い格子のエプロンをかけ、うれしそうにパンジーの鉢植をしている。 その縁側の外に立って、私はシャベルで縁の下の土を掬っては素焼の鉢にうつした。この従妹は田舎の家で土いじりの・・・ 宮本百合子 「昔を今に」
・・・足袋つくろいをしながら、若い従妹も小声でそれに合わせている。 わたしは、いうにいえない思いで、胸いっぱいになりながら、そういう宵の情景の裡にいた。 日本のラジオが、五月一日のメーデーを、こうして皆の祭り日として歌の指導まではじめた。・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・延子とその従妹との対照、お延が伯父から小切手を貰うところの情景などで、漱石は生彩をもってそのことを描いているのである。 結婚すれば女が人間としてわるくなる、という漱石の悲痛な洞察は、だが、漱石の生涯ではついにその本来の理由を見出されなか・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・バルザックの「従妹ベット」「ウウジニイ・グランデ」、モウパッサンの「女の一生」などは法律の上にも経済の上にも受け身な女の一生の真情の悲劇を心を貫く如く描いている。「寡婦マルタ」はポーランドの婦人作家オルゼシュコによって書かれているが、この作・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・川添家は同じ清武村の大字今泉、小字岡にある翁の夫人の里方で、そこに仲平の従妹が二人ある。妹娘の佐代は十六で、三十男の仲平がよめとしては若過ぎる。それに器量よしという評判の子で、若者どもの間では「岡の小町」と呼んでいるそうである。どうも仲平と・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫