・・・誰か、文芸は、政治に従属しなければならぬという? ふたゝび、ロマンシズムの自身の生活というものはあり得ないが、それを自覚すると、せざるとによって、その人に対する印象が異るであろう。 これに較べて、無名の自適な詩人に、また田舎で暮す百・・・ 小川未明 「自由なる空想」
・・・ら発生し、大家族を通しての、血族的、言的共生を契機とし、共同防敵によって統一され、師長による文化伝統の教育と、共存同胞による衣食の共同自給にまつものである事情、すなわち父母と、師長と、国土とへの恩愛と従属との観念を呼びさまさなければならない・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・動物的、本能的愛護と、手足の労働による世話と、犠牲的奉仕とが母性愛と母子間の従属、融合の愛と理解と感謝とに如何に大きな影響を持つかは思い半ばにすぎるものがある。人倫の根本愛の雛型である母子間の結紐を稀薄にすることが理想的社会の結合を暖かく、・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・しかるに普通の詩歌ではこの律動の要素はかなり必要ではあるが、しかしいくらか従属的なものと見なすこともできる。なぜかと言えば、詩歌にはその言葉の連続によって生ずる一貫した企図の表現、平たく言えば筋書きがあって、その筋書きによって代表された一つ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ これらの条項に差等をつけると同時にこれらの条項中のあるものは性質において併立して存在すべきも、甲乙を従属せしむべきものでないと云う事に気がつくかも知れぬ。しかもその併立せるものが一見反対の趣味で相容れぬと云う事実も認め得るかも知れぬ―・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
日本に、言葉の正しい由緒にしたがっての、アカデミア、アカデミズムというものが在るのだろうか。徳川幕府のアカデミアであった林氏の儒学とそのアカデミズムとは、全く幕府の権力に従属した一つの思想統制のシステムであった。幕末の、進・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・女性の風俗、モードの問題ひとつをまじめにとりあげても、こんにちではそこに、日本の流行が植民地的な文化趣味に従属させられてはならないという課題が立ちあらわれる。同時に、日本の独自性というものが一般の関心をひいている現在を利用してふたたび、超国・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・今日プロレタリア作家に課せられている任務は、あらゆる芸術的技術を統一し練磨し、階級性の集注的表現=プロレタリアートの組織の基本的線に従属させ、その独特で鋭利な武器となるべき時にあるからである。「樹のない村」で読者は直接農民委員会、または・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・未開なバリ島の性の祭典には、けがされない性の陶酔があり、主人公のところに東京のひきさかれた生存の頽廃があるというコントラストだけがとらえられても、従属させられている男女の社会生活におけるヒューマニティーの課題はこたえられきれない。 ・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ 昔の武士は、女を社会的に軽く、従属的に扱った。しかしながら、この慣習は女を物件化したと同時に、女の影響によって男の行動が支配されたということは、男の側としてあるまじきことという戒律が厳存した。女子供という表現は、人格以前としての軽侮を・・・ 宮本百合子 「暮の街」
出典:青空文庫