・・・みんな御国のために捨てる命だ。」「おれは何のためだか知らないが、ただ捨ててやるつもりなのだ。×××××××でも向けられて見ろ。何でも持って行けと云う気になるだろう。」 江木上等兵の眉の間には、薄暗い興奮が動いていた。「ちょうどあ・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・主人 まあ、あなたなどは御年若なのですから、一先御父様の御国へお帰りなさい。いくらあなたが騒いで見たところが、とても黒ん坊の王様にはかないはしません。とかく人間と云う者は、何でも身のほどを忘れないように慎み深くするのが上分別です。一・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・「広岡先生の御国はどちらなんですか」と高瀬が聞いた。「越後」 と学士は答えた。 昼過に高瀬が塾を出ようとすると、急に門の外で、「この野郎打殺してくれるぞ」 と呼ぶ声が起った。音吉の弟は人をめがけて大きな石を振揚げてい・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・そうとも、天の配慮を信じているのだ。御国の来らむことを。 日本浪曼派の一週年記念号に、私は、以上のいつわらざる、ぎりぎりの告白を書きしるす。これで、だめなら、死ぬだけだ。 頽廃の児、自然の児 太宰治は簡単である。・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・ 寝ませ和子よ 水色絹の 帳の裡に 夢まどらかに バラの香りと 小鳩の声の 夢の御国を おとのうまで ねませ和子よ 夢まどらかに…… とのう。 したがあまり永く神のお恵を受けたので声が・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫