・・・色は海の青色で――御覧そのなかをいくつも魚が泳いでいる。もう一つは窓掛けだ。織物ではあるが秋草が茂っている叢になっている。またそこには見えないが、色づきかけた銀杏の木がその上に生えている気持。風が来ると草がさわぐ。そして、御覧。尺取虫が・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・またそのようなことを、と光代は逃ぐるがごとく前へ出でしが、あれまあちょいと御覧なさいまし。いい景色のところへ来たではありませぬか。あの島の様子が何とも言われませんね。おう奇麗だ。と話を消してしまいぬ。 名にし負える荻はところ狭く繁り合い・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・ 一寸来て御覧なさいよ。面白い物がありますから。早く来て御覧なさいよ!」と叫ぶ。「また蛇が蛙を呑むのじゃアありませんか。」と「水力電気論」を懐にして神崎乙彦が笑いながら庭樹を右に左に避けて縁先の方へ廻る。少女の室の隣室が二人の室なのであ・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・君兪は金で面を撲るような九如を余り好みもせず、かつ自分の家柄からして下眼に視たことででもあろう、ウン御覧に入れましょうといって半分冗談に、真鼎は深蔵したまま、彼の周丹泉が倣造した副の方の贋鼎を出して視せた。贋鼎だって、最初真鼎の持主の凝菴が・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・の山、梯子段を登り来る足音の早いに驚いてあわてて嚥み下し物平を得ざれば胃の腑の必ず鳴るをこらえるもおかしく同伴の男ははや十二分に参りて元からが不等辺三角形の眼をたるませどうだ山村の好男子美しいところを御覧に供しようかねと撃て放せと向けたる筒・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・殿「何だえ……御覧なさい、あの通りで……これ誰か七兵衞に浪々酌をしてやれ、膳を早く……まア/\これへ……えゝ此の御方は下谷の金田様だ、存じているか、これから御贔屓になってお屋敷へ出んければ成らん」金田「予て噂には聞いていたが未だしみ・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・「御覧、お前たちがみんなでかじるもんだから、とうさんの脛はこんなに細くなっちゃった。」 私は二人の子供の前へ自分の足を投げ出して見せた。病気以来肉も落ち痩せ、ずっと以前には信州の山の上から上州下仁田まで日に二十里の道を歩いたこともあ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・「這入って行って御覧よ。ここいらには好い人達が住まっているのだ。お前さんにも何かくれるよ。」「いやだ。己には出来ない。立派な家の戸口は幾らもあるが。」老人は胸の詰まっているような、強情らしい声で答えた。もっと大男の出しそうな声であっ・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・ 御覧になると、すべてで三十枚ありました。それがみんな同じ一人の女の顔を画いた画ばかりでした。その中で、一ばんしまいにかいたのが一ばんよく出来ていました。王さまは、「これは何から写したのか。お前は灯はともさないと言い張るそうだが、暗・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・御覧よ。内のちび達にこれを遣るのだわ。これがリイザアのよ。好い人形でしょう。目をくるくる廻して、首がどっちへでも向くのよ。好いじゃないか。このコルクのピストルはマヤに遣るの。(コルクを填こわく・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
出典:青空文庫