・・・「やって御覧、海が上の方に見えるよ」「どーれ」 篤介は徐ろに帽子を耳の上まで引下げ、腕組みをし、重々しく転がって行った。悌が、横になると思うや否や気違いのようにその後を追っかけた。「ウワーイ」「ワーイ」「ウワーイ」・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・あの応募脚本ですが、いつ頃御覧済になりましょうか。」「そうですなあ。此頃忙しくて、まだ急には見られませんよ。」「さようですか。」なんと云おうかと、暫く考えているらしい。「いずれまた伺います。何分宜しく。」「さようなら。」「さ・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・それからどうなったかお考えなすって御覧なさい。ある日あなたがおいでになって、御亭主が帰られたとおっしゃったでしょう。そこでどうにかして一度御亭主に逢わせて下さいと云って、わたくしは歎願しましたね。しかしどうしてもあなたは聴きませんでしたね。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・思って御覧あそばせ。壁が極く明るい色に塗ってありますものですから、どんな時でも日が少しばかりは、その壁に残っていないという事はございませんの。外は曇って鼠色の日になっていましても、壁には晴れた日の色が残っているのでございます。本当に国の方は・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・さすがの美人が憂に沈でる有様、白そうびが露に悩むとでもいいそうな風情を殿がフト御覧になってからは、優に妙なお容姿に深く思いを寄られて、子爵の御名望にも代られぬ御執心と見えて、行つ戻りつして躊躇っていらっしゃるうちに遂々奥方にと御所望なさった・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・七歳の時にはさらに阿波の国司がこのことを聞いて、目代から玉王を取り上げ、傍を離さず愛育したが、十歳の時、みかどがこれを御覧じて、殿上に召され、ことのほか寵愛された。十七の時にはもう国司の宣旨が下った。ところが筑紫へ赴任する前に、ある日前栽で・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫