・・・そうして彼は赤を殺して畢ったことが心外で胸が一しきり一杯にこみあげて来た。彼は強いて眼を瞑った。威勢がよくて人なつこかった赤の動作がそれからそれと目に映って仕方がない。赤がいつものようにぴしゃぴしゃと飯へかけてやった味噌汁を甞める音が耳には・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・自分の感情では、戦争がよいことだと思ったりしているものかとわかっていながら、あいまいな、肯定とも否定ともつかないひそひそ語りが、本人の気分では否定している戦争を逆に宣伝する役割を負わされ肯定するような心外な効果に陥ってしまう。 わたした・・・ 宮本百合子 「今年のことば」
・・・は、こういう言論の自由抑圧の事実をどういう罪名でよぶか知らないが、日本の民衆としては、自分の投じた一票で猿ぐつわをかませられるとは心外だろう。 現内閣は、政権をとったら、何より先に公約は果せないことを確認して、いい度胸を見せた。「売られ・・・ 宮本百合子 「平和をわれらに」
・・・政恒にとってこれは心外な問いであったろう。もとよりと答えると、曾祖母は私にはそうは見えぬ、と云ったそうだ。一日に何度も薄茶なんか立てさせて飲む性根で、土方の仕事のしめくくりがつくと思うかと云った。政恒は、その日から薄茶を断って生涯を終った。・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
出典:青空文庫