・・・ 夢中になって する――その心根は、いじらしい。 *或時には余り朗らかとも云えぬ情慾を混えた夫婦の 愛を経験して見ると親子の愛まして 自分と父との仲にあるような 父親の愛・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・過去の戦争の年々は、権力によってその場にひき出された個々の人たちの真の心根がどうであったにしても、世界史の上に演じた客観的な役割は、憲兵的である程度をこして、アジアの平和の毒害者であった。戦争中、日本の文学は、戦争協力の方向にたたないものは・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・外の女達も人にかくして思いなやんで居る心根をいじらしがって化粧のはげるのも忘れて居た。ことに久しい間ついて居る女達なぞは、「ほんとうにあの紫の君は憎い方だ、あの方さえやさしい心を持って居らっしゃれば君様を始めこんな悲しい思をしないものを・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・若者らが、この社会の不合理につき動かされて、様々の艱難にとびこんでゆく、その純な心根にこそ、先ず可憐に堪えぬ万斛の涙があろうと思う。自分が正しいと信じた上は、屈辱に堪えて私生子を生もうとした允子の心は、子に対した場合は実に俗人的になって、「・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫