・・・が、ヨセフは、「この呪が心耳にとどまって、いても立っても居られぬような気に」なったのであろう。あげた手が自ら垂れ、心頭にあった憎しみが自ら消えると、彼は、子供を抱いたまま、思わず往来に跪いて、爪を剥がしているクリストの足に、恐る恐る唇をふれ・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・こう云う所まで来て見ると聖書から嘗て得た感動は波の遠音のように絶えず私の心耳を打って居ます。神学と伝説から切り放された救世の姿がおぼろながら私の心の中に描かれて来るのを覚えます。感動の潜入とでも云えばいいのですか。 何と云っても私を・・・ 有島武郎 「『聖書』の権威」
・・・の著しいちがいはどこまでも截然と読者の心耳に響いて明瞭に聞き分けられるであろう。同じように、たとえば「炭俵」秋の部の其角孤屋のデュエットを見ると、なんとなく金属管楽器と木管楽器の対立という感じがある。前者の「秋の空尾の上の杉に離れたり」「息・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫