・・・以上は、わが武勇伝のあらましの御報に御座候えども、今日つらつら考えるに、武術は同胞に対して実行すべきものに非ず、弓箭は遠く海のあなたに飛ばざるべからず、老生も更に心魂を練り直し、隣人を憎まず、さげすまず、白氏の所謂、残燈滅して又明らかの希望・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・茶会御出席に依り御心魂の新粧をも期し得べく、決してむだの事には無之、まずは欣然御応諾当然と心得申者に御座候。頓首。 ことしの夏、私は、このようなお手紙を、れいの黄村先生から、いただいたのである。黄村先生とは、どんな御人物であるか、それに・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・この小説が後半まで書き進められたとき、作者の心魂に今日のその顔が迫ることはなかったのだろうか。愛と死の現実には、歴史が響き轟いているのである。 武者小路氏はルオウの画がすきで、この画家が何処までも自分というものを横溢させてゆく精力を愛し・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・と馘首の先頭に婦人をおいていることの不条理は、あらゆる人の心魂に徹している。道徳的頽廃の根源も、生活不安定にある。 困難な条件が循環して果しないのに失望した一団の婦人たちが現れた。それほど国家が無力ならば、自分たち未亡人といわれる境遇に・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・夜も眠らない稲草人の前に、一つ一つくりひろげられる貧しい農家の老婆が害虫と闘い生活と闘う姿や、飲んだくれの夫に売られることを歎いて、投身して死ぬ漁婦の独白は読者の心魂に刻み込まれて消すことの出来ないリアリティーをもって描かれている。 そ・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 女性が自己の自覚したと同時に起った困難な心魂の訓練を要する問題です。 箇人とし自己の生活を拡張させて行きたい慾求。それは、十九世紀後に於るように、徒な男性に対する反抗によるものではありません。人間とし、男が天性に従って仕事を選び、・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・それは、まさしく当時の私の心魂をつかんで燃え立たしていたトルストイの翻訳の中にある文句なのであったが、それから十数年後、ソヴェト同盟へ行って見たら、どうだろう! 直訳文のままながらも私の感情を表現するものとして役立っていたその「子供等よ!」・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
出典:青空文庫