・・・ 三 この二三年らい日本のあらゆる事情が激変しているが、特に昨今は物価の乱調子な気ぜわしない上り下りや様々の必需品の不揃い不安定な状態も、切実に生活感情のうちにそのかげをうつしているのだと思う。乾物屋が店の・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・生活必需品の値上げについて賃上げ要求をして七百円から千五百円になり、千八百円ベースの今日、物価はぐっと高くなり公定価も上って、とても千八百円ベースではやって行けなくなっている。つつましく暮して四人家族で五千六百円ばかりかかる現実となった。大・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・軍需産業の病的な拡大のために企業整備がはじまり、民間の日常必需品の統制が開始された。前年十月に成立した東條英機内閣はこの時期、彼等にとってもっとも甘美なファシスト独裁の夢をみていた。一九四三年健康状態如何にかかわらず私の・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・たらい、タオル、シャボン、箒、盆、皿、ナイフ、フォーク、スプーンなどという必需品さえなかった。医療材料、薬品も揃っていない。働いている人々といえば無能な医者と官僚主義に頭も心も痲痺している役人と、疲労困憊して自身半病人である少数の人々ばかり・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・銀座その他には数千円の贅沢品があふれていて、飛ぶように売れているが、生活必需品の購買力はガタ落ちだと、はっきりいっている。新しいナベがいる、ほうきがいる。ほうき一本三百円もする。「ほうきがほしいわねえ」という主婦の言葉はそれが買いにくいから・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・空襲以来、すべての人は、ラジオが生活の必需品であり、それは米と一緒に守らなければならないものとして理解するようになった。一つは、報道が人々の生命の安全に直接関係したからであるし、他面では、機械がなくて、一度失ったらもう手に入り難いという事情・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・ モスク文化象徴である石油コンロ、薬カン、人別手帖で買ったところの貴重なパンの塊、ソーセージ、――つつましき人生の全必需品がもち込まれて居るのだ。 この湯槽には、だが幸三十四度の温湯がたたえられてある。黒い東洋の髪をぬらしつつ漬って居る・・・ 宮本百合子 「無題(七)」
・・・ 生活必需品に対してそういう手当をする政府は、つい先頃、国鉄運賃大幅値上げをした。省線・都電の運賃値上げをして、地域によっては出もしないガス六倍、水道十二倍にすると云った。まさか、出ないガスと水道だから上ったところでメートル代だけです、・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
・・・私達は、その金を基礎として、当然人民の日常生活必需を充たす方法が考えられているのだろうと思っていた。しかし政府がしようとしていることはそうではなかった。その金で、戦時公債償却をするということである。それから軍需生産者に、補償金として支払われ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫