・・・風雨一過するごとに電燈の消えてしまう今の世に旧時代の行燈とランプとは、家に必須の具たることをわたしはここに一言して置こう。 わたしは何故百枚ほどの草稿を棄ててしまったかというに、それはいよいよ本題に進入るに当って、まず作中の主人公となす・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・自分の才能の達成と、愛の達成そのもののために、民主社会の諸条件がどんなに必須なものであるかを、どのように理解しはじめているだろうか。「キュリー夫人伝」を書いて、日本にもしたしまれているキュリー夫人の二女エヴ・キュリーは、一九四三年に「戦・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・これ等は、おもに流動する貨幣のみちびきかた、適当な配分を考究して、金によって支配される、生活に必須な物質方面から、人間生活を正当なものに落ち付けて行こうとするのではないでしょうか。けれども、私が、深く疑問に思うことは、それ等の諸問題が学理的・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・現在それで食わないにしろ職業としてやってゆけるだけの実力があるということこそ、ある仕事をもつことで女に心と生活のよりどころを与える必須条件だと思わずにはいられません。そして、それを職業としてゆくからこそ、道楽では踏み切れないところをも踏み切・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ 今度の経験によってもロカフの組織は、プロレタリア作家の階級的発展に必須な一分野であることが明らかにされた。一般赤軍兵は満足をもって、プロレタリア作家の進出を迎えた。赤軍は労働者、農民以外の何者でもない。工場・農村のプロレタリアートに密・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ ソヴェトではいかに文字が実際生活の理解、建設に必須な武器かということは、一ヵ月この驚くべく前進的で柔軟性に富んだ多面な新社会の中に生活して見れば忽ちわかる。 たとえば日本女は小説を書くのが本職である。だから、未来に於てソヴェトの芸・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・芸術的完成、生き生きとした芸術的形象というものは、その作品が芸術的感銘を与えるために必須な条件と見られてはいるが、翌年この理論の発展として云われた新しいリアリズムの提議では、新しいリアリズムの本質を十九世紀以降の個人主義に立つリアリズムと異・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・という冒頭の一句から全篇二十三ヵ条にわたって真に心と肉体の健やかで人間らしい娘、妻、母を生むために必須な社会向上の要点を力説しているのである。 中島湘煙が、いいといった昔風な家庭の土台をなす益軒流の観念に対して、諭吉は歯に衣をきせず「女・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・炭の合理的な使いようは日々のこととして男にとっても必須になって来ているし、この頃は男は月給袋だけ家へもってかえればいいのでなくて、卵とか干うどんとかバタとか、そんな男の買いものもふえてきているのである。 家のことは女まかせ、という旧い生・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・美しいソプラノの出る、または味のあるアルトの出るよい女性の喉を持ってさえおれば、声楽家として第一の必須条件は生理的に具わっている。規律正しい練習、健康法、その他の勉強をしてゆくに強大な忍耐と意志と聰明さがいる。そして、そういう音楽勉強の許さ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫