・・・まともに応接せられるには、もう二十年もかかるのだろう。二十年。手を抜いたごまかしの作品でも何でもよい、とにかく抜け目なくジャアナリズムというものにねばって、二十年、先輩に対して礼を尽し、おとなしくしていると、どうやらやっと、「信頼」を得るに・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・食事をすませてから応接室に行き、つッ立ったまま、ピアノのキイを矢鱈にたたいた。ショパン、リスト、モオツアルト、メンデルスゾオン、ラベル、滅茶滅茶に思いつき次第、弾いてみた。霊感を天降らせようと思っているのだ。この子は、なかなか大袈裟である。・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・たまたま来客でもあって応接していると、肝心な話の途中でもなんでも一向会釈なしにいきなり飛込んで来て直ちに忙わしく旋回運動を始めるのであるが、時には失礼にも来客の頭に顔に衝突し、そうしてせっかく接待のために出してある茶や菓子の上に箔の雪を降ら・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・たまたま来客でもあって応接していると、肝心な話の途中でもなんでもいっこう会釈なしにいきなり飛び込んで来て直ちにせわしく旋回運動を始めるのであるが、時には失礼にも来客の頭に顔に衝突し、そうしてせっかく接待のために出してある茶や菓子の上に箔の雪・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・それからまたある時自分にしては比較的高価な本を買った時に応接した店員の顔がどこかにちらとひらめいたと思われた冷笑の影が自分に不思議な興奮を与えた事も思い出される。あのころには書物の値段は正札でなく一種の符徴でしるしてあった。もっともその符徴・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ しかしそういう場合に私に応接した多くのおばさんたちは、子供の私がわけもなく笑い出してもそんな事はてんで問題にもならないようであった。かえって向こうでもにこにこして「たいへん大きくなった」などという。そんな事を言われてみると、もう少しも・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・其の言う語と其の態度とは以前よりも一層不穏になっていたので、僕は自身に応接するよりも人を頼んだ方がよいと思って、知合の弁護士を招いて万事を委託した。 書肆改造社の主人山本さんが自動車で僕を迎いに来て、一緒に博文館へ行ってお辞儀をしてくれ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・したがって人との応接が楽になり、朗らかな気持で談笑することが出来てきた。そして一般に、生活の気持がゆったりと楽になって来た。だがその代りに、詩は年齢と共に拙くなって来た。つまり僕は、次第に世俗の平凡人に変化しつつあるのである。これは僕にとっ・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・ 二人が一緒に応接室の椅子にこしかけたとき、署長さんの黄金いろの眼は、どこかずうっと遠くの方を見ていました。「署長さん、ご存じでしょうか、近頃、林野取締法の第一条をやぶるものが大変あるそうですが、どうしたのでしょう。」「はあ、そ・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・ わたくしは応接室に通されました。デストゥパーゴはようやく落ち着きました。「わたくしがここへ人を避けて来ているのは全くちがった事情です。じつはあなたもご承知でしょうが、あの林の中でわたくしが社長になって木材乾溜の会社をたてたのです。・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫