・・・といったような考えや、そういう二つの考え方の間に行なわれる討議応酬は、自分のような流儀の考え方から見ればおよそ無意味なこととしか思われないのである。真実な現象の記録とその分析的研究と系統化が行なわれて、ほんとうの「学」が進歩すれば、政治でも・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・次に二重奏連句の二人の作者が、もしその性格、情操、趣味等において互いに共通な点を多分にもっている場合には、句々の応酬はきわめて平滑に進行し、従って制作中のその二人の作者自身の心持ちはきわめて愉快に経過するのであるが、できあがったものを「連句・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・そして、このことは徳永、小田切の論争その他を、個人的に対立した見解の応酬に陥らせ勝であるばかりか「勤労者文学」の規定そのもののあいまいさを客観的に見極めて、民主主義文学運動全体を発展させてゆく評価のよりどころさえも見失わせる危険をもっている・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ 三 代用食 このあいだ都下のある新聞の投書欄で、代用食について一くみの応酬が行われた。 はじめ投書した某氏は男で某紙の家庭欄に紹介されている代用食の製法にしたがってためしてみたらたいへんどっさり砂糖がいっ・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・ 顧炎武はかつて牌を室に懸けて応酬文字を拒絶した。この「なかじきり」もまた顧家懸牌の類である。大正六年九月 森鴎外 「なかじきり」
・・・栖方は酒を注ぐ手伝いの知人の娘に軽い冗談を云ったとき、親しい応酬をしながらも、娘は二十一歳の博士の栖方の前では顔を赧らめ、立居に落ち付きを無くしていた。いつも両腕を組んだ主宰者の技師は、静かな額に徳望のある気品を湛えていて、ひとり和やかに沈・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫