・・・然るに此男子をば余処にして独り女子を警しむ、念入りたる教訓にして有難しとは申しながら、比較的に方角違いと言う可きのみ。一 婦人は夫の家を我家とする故に唐土には嫁を帰るといふなり。仮令夫の家貧賤成共夫を怨むべからず。天より我に与へ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・作家の或るもの、例えばイワーノフなどは革命当時の活力と火花のようなテンポを失い、無気力でいやに念入りな、個人的な心理主義的作風に陥って行ったのである。 これは危い時代であった。質のよい、若いプロレタリアートは自分等の階級の本当の芸術的表・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・出来にくい相談と分っているものを唯さえ、無策無策で信頼を失っている今日の政府が、念入りに何故、農民に向って新しく出しかけるのであろうか。 わたしたちが、一人民として、大いに洞察しなければならない社会的なモメントはここの点にかかっている。・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ 咲は毎日毎日の事をほんとうに念入りに清に教えて居た。「西洋洗濯から取って来たシーツはここに入れてね、 肌襦袢に糊をつけたのはおきらいなんですよ。」 寝部屋からそんな事を云って居るのが聞える事もあった。 食事の時なんかに・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・例えば、組合の闘争において、権力との闘いにおいて、プロレタリアートの全線にプラスするどんな小さな成果も、わたしたちはそれを念入りに計算します。民主主義出版物は、その一つ一つの成果を或る場合には誇張してわたしたちに知らせる場合さえあります。そ・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ 殿の左かわには後室北の方、二人の姫、女房達花をきそって並んで居る、いずれも今日をはれときかざって念入りの化粧に額の出たのをかくしたのもあれば頬の赤さをきわ立たせた女も少くなくない。 なまめいたそらだきの末坐になみ居る若人の直衣の袖・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ △静かに、かなり念入りな態度で本を読んで居た彼女は、不意に、自分はわきの竹籠に入って居る赤い鉛筆を削らなければならないのだと云う気がした。で、早速、勢よく、その思いつきで、退屈だった自分が助われたと云うような顔をして、それを実行し・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・ 重吉は、口元に一種の表情をうかべて、少し念入りにその原稿を見直した。「婦人雑誌に、何だか中途半端な小説をいくつか書いていたときがあった、あの一つだね」「そうなの」 原稿を床のそとの畳へ放り出すように置いた。「ほかの人達・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・いろんな外国語がはいったり、云いまわしが念入りだったりして、ソヴェト同盟の大衆にはむずかしすぎた。レイスネルは、然し、自信をもっていた。自分はレーニンの文章はきらいだ。あんな味もそっけもない、ボキボキした文章じゃないと云っていたが、彼女が段・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・この作はおそらく先生の全生涯中最も道徳的癇癪の猛烈であった時代に書かれたものであろう。念入りに重ねられた諧謔の衣の下からは、世間の利己主義の不正に対する火のような憤怒と、徳義的脊骨を持った人間に対するあふれるような同情とがのぞいている。しか・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫