・・・今のところ、まるでその実在性を念頭においてさえもいないように見える。保守の党が中央部、又は執行機関に婦人代議士を一人も包括しようとしていないばかりか、社会党も、婦人代議士は婦人部で、という風で、一政党の政策というよりも社会政策的な婦人部案を・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
要件 四月二十六日一、出版プランについて党でとり上げるにしろ、イニシアは加藤が自分でとったものと感じていることを十分念頭におく必要があるでしょう。 きのうも「共産党の婦人部がどう思ったってかまわな・・・ 宮本百合子 「往復帖」
・・・の提唱がされている一方に、同じ作家たちによって文学の大衆化のことが盛んに語られ、今日の読者大衆の文化的な水準というものはひどく低いのであるから、作家はそれを念頭において書くものをやさしく書かねばいかん、変に凝った、分りにくいスタイルでやっと・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・を読みながら、そのおりおり念頭に浮んで来た何冊かの本をノートしただけのこの短いメモを、本当に科学に通暁した人たちが見たらば、その貧弱さ、低さ、範囲の狭さを、どんなにおかしくまた憐れに思うことだろう。 私は全くへりくだった心持でいわば私た・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・そういうことを、女のひとは念頭に置かないで暮せないらしい。外見は、物静で、ちんまりしているけれど、内部で、そういう些事に労する神経は並大抵でないらしい。なかなか窮屈なことと思う。 女の人が、総体経済家で、きれいずきで、家政的に育て上げら・・・ 宮本百合子 「京都人の生活」
・・・あなたのお体のことは、勿論絶えず念頭にありますが、私は決してくよくよ案じては居りません。そのことは、呉々御安心下さい。自然の治癒力について私は自分の経験から或理解をもって居りますし、あなたという方をも亦更によく理解して居りますから。根本的に・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・一寸見ると、そして、這ってゆく方角を念頭に置かないと、その実は尻尾である茶色甲冑の方が頭と感違いされるのだ。私は、近ごろ熾になりたての熱心さでいい加減雑誌の上を這い廻らせてから、楊子の先でちょいと、胴のところに触って見た。するとまあ虫奴の驚・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・そこで予は切角の請ながら、この事をば念頭に留めなかった。然るに主筆はまた突如として来られて、是非書けと促される。その情極めて慇懃である。好し好し。然らば主筆のために強いて書こう。同じく文壇の評ではあるが、これは過去の文壇の評で、しかもその過・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・しかしそういう変動を問題とするためには、その変動の前の室町時代の文化というものが、一体どういうものであったかを、はっきりと念頭に浮かべておかなくてはならぬ。 原勝郎氏はかつて室町時代は日本のルネッサンスの時代であると論じたことがある。日・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・当時はまだ『道草』も書かれておらず、いわんや夫人の『漱石の思い出』などは想像もできなかったころであるから、漱石と夫人との間のいざこざなどは、全然念頭になかった。『吾輩は猫である』のなかに描かれている苦沙弥先生夫妻の間柄は、決して陰惨な印象を・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫