・・・やや躊躇していたが、このあたりには人家も畑も何もない事であるからわざわざかような不便な処へ覆盆子を植えるわけもないという事に決定して終に思う存分食うた。喉は乾いて居るし、息は苦しいし、この際の旨さは口にいう事も出来ぬ。 明治廿六年の夏か・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・ そういう体のつかいかたをしている娘さんたちの若い肉体が、求める律動はどういうものだろうか。思う存分に手も伸ばし肢も背ものばし、外気と日光と爽やかな風の流れの欲しいのが自然だろうと思う。勝手に体を屈伸させ、さぞ跳ねたりもしたいだろう。肉・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・なまじい、諸神なみに扱われるので、ふてて思う存分あたけることも出来はせぬ。ミーダ 未だ音楽が聴えるな。――アポローばりの立琴をきかせられたり、優らしい若い女神が、花束飾りをかざして舞うのを見せられたりすると、俺の熾な意気も変に沮喪する。・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫