・・・周章てて急坂を駈下りて転がるように停車場に飛込みざま切符を買った処へ、終列車が地響き打って突進して来た。ブリッジを渡る暇もないのでレールを踏越えて、漸とこさと乗込んでから顔を出すと、跡から追駈けて来た二葉亭は柵の外に立って、例の錆のある太い・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ ひどい急坂を上る機関車のような、重苦しい骨の折れる時間が経った。 毎朝、五時か五時半には必ず寄る事になっている依田は、六時になるに未だ来なかった。 ――依田君。六時まで、三時から君を待ったが、来ないから、僕はM署へ持って行かれ・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・中国の作家が封建的な重荷とたたかい時を同じくして歪んだる新しいものともたたかわなければならない苦難と堅忍とは、すべておくれて急に育った国の文化が生きぬかなければならぬ急坂な路なのである。 第三回の文化擁護の国際作家会議はアメリカで開かれ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫