・・・ 一先拝借して自分の急場を救った上で、その中に母から取返すとも、自分で工夫して金を作るとも、何とでもして取った百円を再び革包に入れ、そのまま人知れず先方に届ける。 天の賜とは実にこの事と、無上によろこび、それから二百円を入れたままの革包・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・友達がかわいそうだから、急場のところ、何とか都合をしてくれと頼んで見たまえ。」「そうか。やって見よう。」とわたしは唖々子をその場に待たせて、まず冠っていた鳥打帽を懐中にかくし、いかにも狼狽した風で、煙草屋の店先へ駈付けるが否や、「今・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・ではどうしてこの急場を切り抜けるかと質問されても、前申した通り私には名案も何もない。ただできるだけ神経衰弱に罹らない程度において、内発的に変化して行くが好かろうというような体裁の好いことを言うよりほかに仕方がない。苦い真実を臆面なく諸君の前・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫