・・・「オペラの怪人」という綽名を友人達から貰って、顔をしかめ、けれども内心まんざらでもないのでした。もう一枚のマントはプリンス・オヴ・ウエルスの、海軍将校としてのあの御姿を美しいと思って、あれをお手本にして造らせました。ところどころに少年の独創・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・しかるに今この怪人物、ぬっと屋台店に這入り来り、やあ老人、やってるな、と叫び候。かれ既に少しく酔っている様子に見え候えども、老人やってるな、とはぶしつけな奴と内心ひそかに呆れ申候。お手前だって、やはり老人には候わずや。武士は相見互いという事・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・椎名町支店長は、痛恨をもって、自分が、怪人物の腕に巻いていた衛生局の腕章にけおされて、行員にも服薬させたことを告白している。そして、日本人のわるい癖で役所からというとつい服従する、と歎いて語った。 日本の人民は、久しい絶対主義と封建性と・・・ 宮本百合子 「目をあいて見る」
出典:青空文庫