・・・ フレンチの向側の腰掛には、為事着を着た職工が二三人、寐惚けたような、鼠色の目をした、美しい娘が一人、青年が二人いる。 フレンチはこの時になって、やっと重くるしい疲が全く去ってしまったような心持になった。気の利いたような、そして同時・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・「へへへ、そんなに恍けなくたって、どうせそのうちに御披露があるんでしょうから……」と言って、為さんは少し膝を進めて、「ですが、お上さん、親方はそりゃ粋を利かして死んなすったにしても、ね、前々からこういうわけだということが、例えば私の口か・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ それから四十九日が済んだという翌くる日の夕方前、――丁度また例の三百が来ていて、それがまだ二三度目かだったので、例の廻り冗い不得要領な空恍けた調子で、並べ立てていた処へ、丁度その小包が着いたのであった。「いや私も近頃は少し脳の加減を悪・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・汽車に揺られて、節々が痛む上に、半分寐惚けて、停車場に降りた。ここで降りたのは自分一人である。口不精な役人が二等の待合室に連れて行ってくれた。高い硝子戸の前まで連れて来て置いて役人は行ってしまった。フィンクは肘で扉を押し開けて閾の上に立って・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫