・・・そして今や現実の世界を遠く脚下に征服して、おもむろに宇宙人生の大理法、恒久不変の真理を冥想することのできる新生活が始ったのだと、思わないわけに行かないのであった。 彼は慣れぬ腰つきのふらふらする恰好を細君に笑われながら、肩の痛い担ぎ竿で・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 批評する対象の時間的恒久性という点から見ても実にいろいろな種類の批評がある。たとえば、音楽の演奏会の批評などは、その時に聞かなかった聴衆にはナンセンスである。生け花展覧会の批評などもややこれに類している。映画の批評となると、まさかそれ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ もしもこのように災難の普遍性恒久性が事実であり天然の方則であるとすると、われわれは「災難の進化論的意義」といったような問題に行き当たらないわけには行かなくなる。平たく言えば、われわれ人間はこうした災難に養いはぐくまれて育って来たもので・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ ともかくも、こういう大切な観測事業をその日暮しその年暮しになりやすい恐れのある官僚政治の管下から完全に救出して、もう少し安定な国家の恒久的機関を施定することが刻下の急務ではないかと思われる。そうすれば凶作問題なども自ずから解決の途につ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・最も卑近な言葉をもって言い現わせば、恒久なる時空の世界をその具体的なる一断面を捕えて表現せよ、ということである。本体を表現するに現象をもってせよ、潜在的なる容器に顕在的なる物象を盛れというのである。本情といい風情というもまた同じことである。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ 次には大洋の水量の恒久と関係して蒸発や土壌の滲透性が説かれている。 火山を人体の病気にたとえた後に、物の大きさの相対性に論及し、何物も全和に対しては無に等しいと宣言している。 また火山の生因として海水が地下に滲透し、それが噴火・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・人生の全局面を蔽う大輪廓を描いて、未来をその中に追い込もうとするよりも、茫漠たる輪廓中の一小片を堅固に把持して、其処に自然主義の恒久を認識してもらう方が彼らのために得策ではなかろうかと思う。――明治四三、七、二三『東京朝日新聞』――・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・それゆえ、殆ど、地球上全部の人間が、私は、今、新たな、もっと恒久普遍な価値を、生活の標準として見出だそうとつとめているのだと思います。一方からいうと、生活が苦るしく、疲れ、倒れるもののある位、当然であり、大きい目で見、謙譲に考えて、やむを得・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・ 第一、ソヴェトのプロレタリア作家たちが、一時的に農村や工場へ出かけて行って観察し、材料を集めて来るというような状態は、ソヴェトの芸術運動発展の方向から見て恒久的な性質をもつものであろうか? 七月の党大会に、ラップ代表としてキルショ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・今、私共が見ずにはいられない事実であるけれども、私共は、失敗した今日の現象と、其の背後に潜んでいる希願との、恒久性の差を、明かに見て進まなければ成らないのではあるまいか。世界が趨こうとしている方向は、決して幻想郷ではない。人類の意向は、酔狂・・・ 宮本百合子 「断想」
出典:青空文庫