・・・ 玄象道人は頭を剃った、恰幅の好い老人だった。が、金歯を嵌めていたり、巻煙草をすぱすぱやる所は、一向道人らしくもない、下品な風采を具えていた。お蓮はこの老人の前に、彼女には去年行方知れずになった親戚のものが一人ある、その行方を占って頂き・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・流行の茶の背広を着た、恰幅の好い、消息通を以て自ら任じている、――新聞の美術記者である。私はこの記者から前にも一二度不快な印象を受けた覚えがあるので、不承不承に返事をした。「傑作です。」「傑作――ですか。これは面白い。」 記者は・・・ 芥川竜之介 「沼地」
・・・その恰幅と潮風に鍛えられた喉にふさわしい低い幅のある荘重な音声で草稿にしたがって読まれる演説は、森として場内の隅々まで響いた。どことなしお国の訛が入る。 つづいて桜内蔵相。内容はともかくとしてやはり声はよく耳に入った。畑陸相が登壇すると・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫