・・・ か弱い女をいじめるばかりか、悪名を着せるとは怪しからぬやつじゃ。 使 何が悪名です? 小町はほんとうに、嘘つきの男たらしではありませんか? 神将 まだ云うな。よしよし、云うならば云って見ろ。その耳を二つとも削いでしまうぞ。 使・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・ 私は、悪名のほうが、むしろ高い作家なのである。さまざまに曲解せられているようである。けれども、それは、やはり私の至らぬせいであろうと思っている。実に、むずかしいものである。私は、いまは、気永にやって行くつもりでいる。私は頭がわるくて、・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・近代になって、これが各種の伝染病菌の運搬者、播布者として、その悪名を宣伝されるようになり、その結果がいわゆる「蠅取りデー」の出現を見るにいたったわけである。著名の学者の筆になる「蠅を憎むの辞」が現代的科学的修辞に飾られて、しばしばジャーナリ・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・近代になってこれが各種の伝染病菌の運搬者播布者としてその悪名を宣伝されるようになり、その結果がいわゆる「はえ取りデー」の出現を見るに至ったわけである。著名の学者の筆になる「はえを憎むの辞」が現代的科学的修辞に飾られてしばしばジャーナリズムを・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・先生は最初感情の動くがままに小説を書いて出版するや否や、忽ち内務省からは風俗壊乱、発売禁止、本屋からは損害賠償の手詰の談判、さて文壇からは引続き歓楽に哀傷に、放蕩に追憶と、身に引受けた看板の瑕に等しき悪名が、今はもっけの幸に、高等遊民不良少・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫