・・・勧業債券は一枚買って千円も二千円もになる事はあっても、掘出しなんということは先以てなかるべきことだ。悪性の料簡だ、劣等の心得だ、そして暗愚の意図というものだ。しかるに骨董いじりをすると、骨董には必ずどれほどかの価があり金銭観念が伴うので、知・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・狐は、私が動物園で、つくづく観察したところに依っても、決して狡猾な悪性のものでは無かった。むしろ、内気な、つつましい動物である。狐が化けるなどは、狐にとって、とんでも無い冤罪であろうと思う。もし化け得るものならば何もあんな、せま苦しい檻の中・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・ほんものの悪性の焔が、ちろちろ顔を出す。かたまった血のような、色をしている。茶褐色である。棘のある毒物の感じである。紅蓮、というのは当っていない。もっと凝固して、濃い感じである。いかにも、兇暴の相である。とぐろを巻いて、しかも精悍な、ああ、・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ 流感は初期にかかると軽いが後になるほど悪性だとよく人が云う。黴菌がだんだん悪ずれがして来て黴菌の「ヒト」が悪くなるせいでもなさそうである。 流行の初期に慌てて罹る人は元来抵抗力の弱い人ではないかと思う。そういう弱い人は、ちょっと少・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・犬の人にかみつきて却て夜を守らざるは、悪性の犬なり、不能の犬なり。然るに此悪性不能を牝犬の一方に持込み、牝犬の人をみ夜を守らざるは宜しからずとのみ言うは不都合ならん。牡犬なれば悪性にても不能にても苦しからずや。議論片落なりと言う可し。蓋し女・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・則ち肉類や乳汁を、あんまりたくさんたべると、リウマチスや痛風や、悪性の腫脹や、いろいろいけない結果が起るから、その病気のいやなもの、又その病気の傾向のあるものは、この団結の中に入るのであります。それですからこの派の人たちはバターやチーズも豆・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ そうして見ると、よっぽど悪性の熱だと見える。 どうかしなくちゃあならない。 その晩早速、親元へ電報を打ってやった。 只身の廻りの世話位なら誰もいやがるものもないけれども、何から何までとなると、女達も気の毒だし、第一、思・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・どういうことかと思っているとそれから三日目に極めて悪性の乳嘴 二「――ソラ見えるだろうが」「見えやしませんよ」 桜のことを云っているのである。警察署の裏、北向きの留置場では花時でも薄暗く、演武場の竹刀の・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・そしていくらかずつよくなってきているから、悪性のものでないことは専門的に確実だそうです。ここに図を書くと尚いいのだけれど。 咲枝さんのお腹は今もってパンクしません。でも今日明日で、私たちは始終大きなお腹に横目を使っています。今度私が・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・電力不足、石炭不足、悪性インフレーション防止、円ブロックの問題の対策如何に。米のないこと、マッチのないこと、それはどう解決されるのであろうか、政府の方針を守って買い溜をしなかったものは今日物資に不自由し、命を守らずして買いだめしたものは、不・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫