・・・来客の下駄や傘がなくなる、主人が役所へ出懸けに机の上へ紙入を置いて、後向に洋服を着ている間に、それが無くなる、或時は机の上に置いた英和辞典を縦横に絶切って、それにインキで、輪のようなものを、目茶苦茶に悪書をしてある。主人も、非常に閉口したの・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・夥しい良書悪書の氾濫にもかかわらず、女性の著作のしめている場所は、狭く小さく消極的で、波間にやっと頭を出している地味の貧しい小島を思わせる。やっと、やっと、絶え絶えの声を保って来ているのである。 そして、なお興味のあることは、おや、すこ・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
一 情報局、出版会という役所が、どんどん良い本を追っぱらって、悪書を天下に氾濫させた時代があった。日配が、それらのくだらない本を、束にして、配給して各書店の空虚な棚を埋めさせた。今から三年ばかり前・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫