・・・京城にいるとか会社員をしている事は、いままで、なんら、悪条件と感じませんでしたが、こんどの事件があってからは、急にイヤになったのです。今日でも会社にでると殆んど、もう自分の時間がありません。負傷前は五六時間睡眠平均、または時に徹夜で読書、著・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・この種の問題が、ここで扱われているような場合に――食糧問題は、台所やりくりではなくて、男も女もひっくるめた全人民の生存のための問題であり、女子労働の悪条件と悲劇的な女子失業の現象は、とりも直さず全勤労人口の問題であるとして捉えられたとき――・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ こんにち、日本の人民生活全体のおかれている悪条件は、もっともきびしい形で女性の生活に反映している。しかも、苦しいことは、若い少女の感情を不安定にし、荒びさせている社会悪の諸条件は、家庭の妻に、働く婦人のすべてに、未亡人をふくむすべての・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・特に、生活資金の二百円削減は、日常生活に甚大に響き、物価高、米の配給遅延の悪条件、失業の増大等、どんな婦人の心にも、このままではやってゆけない切迫感を湧きたたせている。婦人立候補者の大部分は「政治と台所の直結」といい「女の問題は女で」といい・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・それが、生存する環境の悪条件に左右される自己防衛の牙であることは、著者そのひとが脱出の夜良人に向っていった言葉であきらかにされている。日夜顔をあわせている女同士で自分が八百円に売ってやった衣類の、二百円を天びきに相手にわたして、何も知らない・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・大衆の多くを語らぬ口と、広く、深く視る便宜を益々縮められつつある眼とは、十分にその由って来るところをも究明しかねる日常生活の悪条件に囚われ勝ちである。政治と民衆とは決して近い隣りにはいない。経済の枢軸の廻転は民衆にとっては増税としてのみ最も・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・いつも婦人と青年とがより悪条件で働かされて来たこれまでのしきたりから言えば、三十歳未満の青年は、つまりは女なみだということだろうか。 これは奇怪千万なことだと思う。婦人が戦争中、戦争が終った今日、どれほどの数で一家の支柱となっているかわ・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 贅沢禁止のこととこの場合と全く同じということはできまいが、自分たちばかりではないのだ、という気休めで逆に日々の生活の悪条件に馴れて安心してしまうことがあるとすると、それは社会の本当の進歩のために、悲しむべきことになるだろうと思う。・・・ 宮本百合子 「その先の問題」
・・・そういう社会的な人間操持の一つの表現として貞潔を理解する男女は、人間として当然な各自の貞潔を破壊させるすべての社会の悪条件を排除しなければならないと切実に考える。愛を貫徹する自由こそ基本的人権の最も人間らしい要素の一つなのである。〔一九四六・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・そのままの状態を、一つも発展しないものとして裏返して見れば、悪条件の無くなった社会で、女がそういう奴隷的生存を続ける為の結婚を望まなくなるだろうということは言えるだろう。けれども、私たちはそういう機械的な裏返しで現在の逆を見る誤りに落入って・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫