・・・治安維持法に抵抗しつつ、その悪法について正面から発言できるものは、当時の日本の民衆の間にはおそらくいなかったのであるまいか。獄中で、非転向で、生命を賭してたたかっていた人々のほかには。 したがって、ジャーナリズムにあらわれる程度の転向に・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・すなわち、権力が悪用しようとするすべての悪法への嫌悪と、それにあくまで抵抗してゆく民主的理論についてゆくことをこわく思う個人の心とを、ごっちゃにして歴史の前進と自身の運命を混乱させてはならないという教訓である。幸、この教訓は、きょうの人々の・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・何とかして悪法・治安維持法にひっかけようとしてそういう問題にからんで来たのです。ブルジョアの手先の諸新聞が「コップ」を日本共産党再建の中心のように書き立てた魂胆も同じくここにあります。文化団体は合法的でやッつける口実がない。だから、そういう・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・はじめから理において勝つべき根拠を失っていて、三宅正太郎によってさえも悪法として警戒されていた治安維持法は、過去十数年間の日本から、知性を殺戮しつくしたのであった。そのあまりの無法さは、直接その刃の下におかれた人々の正気を狂わせたし、その光・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ この悪法が撤廃され、獄中の人々が解放された時、日本は一種の昂奮した状態におかれた。悪法犠牲者が、そのとき英雄と見られた。まして、もう少しで自由になれるとき、獄死した共産主義者たちに対して、尽しきれない遺憾が表明された。それは、自然で、・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・ところが僅か三号出したばかりのとき、発行元であった日本プロレタリア文化連盟が、つい先頃まで私たちを苦しめた治安維持法という悪法によって弾圧され、『働く婦人』の刊行は、非常に困難に陥りました。折角出来上った雑誌をそっくりそのまま警察の手で押え・・・ 宮本百合子 「再刊の言葉」
・・・治安維持法が非人間な悪法であるということを理解しなかった人たちにとっては、自分の学校の卒業生が女のくせに、そういう法律にとがめられて入獄するというようなことは、恥辱のことと思われたのだろう。いまは、それらの人たちも「愛情は降る星の如く」に対・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・自分で、物価の統制に関する法律が悪法であると明言しながら、それが法律であるからにはひとにも厳格に適用し、自分もそれで死ぬことをむしろいさぎよしとしたこの判事の悲劇は、「葦折れぬ」の純情がその社会問題のうけとりかたでは文部省版であったことの遺・・・ 宮本百合子 「再版について(『私たちの建設』)」
・・・はそのものとして、治安維持法の改悪からひきおこされたさけがたい恐慌は恐慌として、率直明白に別な二つの問題として取扱うところまで、当時のプロレタリア文学者たちは社会人として、理論的に成熟していなかった。悪法によって恐慌する人間の自然なこころを・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・一個のマルクシストであり、中央委員であった人物が、残酷な悪法に挫かれて、理性を偽り、これからは共産主義に対してたたかうことを生涯の目的とするという意味の上申書を公表しなければならなかったことは悲劇である。どんなに日本の治安維持法は暴虐で、通・・・ 宮本百合子 「信義について」
出典:青空文庫