・・・未練がないだけ、僕は今かえって仕合せだと思ったが、また、別なところで、かれらの知らないうちにああいう社会にはいって、ああいう悪風に染み、ああいう楽しみもして、ああいう耽溺のにおいも嗅いで見たいような気がした。僕は掃き溜めをあさる痩せ犬のよう・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ ガンジーの母は、ガンジーがロンドンに勉強しに行こうとするとき、インドの母らしい敬虔な心から、わが子がヨーロッパの悪風に染むことを恐れてなかなか許そうとしなかった。決してそんなことのない誓いをさせてやっと許した。 源信僧都の母は、僧・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・実際の真面目を言えば、常に能く夜を守らずして内を外にし、動もすれば人を叱倒し人を虐待するが如き悪風は男子の方にこそ多けれども、其処を大目に看過して独り女子の不徳を咎むるは、所謂儒教主義の偏頗論と言う可きのみ。一 女子は稚時より男・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ この悪風の弊害は、決して一家の内に止まるものにあらず。その波及する所、最も広くしてかつ大なり。ここにその一を述べん。かの政談家の常に患える所は、結局民権退縮・専制流行の一箇条にあり。いかにも人間社会の一大悪事にして、これを救わんとする・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・取るに足らず、男子の獣行を恣にせしむるは男子その者の罪に止まらず、延いて一家の不和不味と為り、兄弟姉妹相互の隔意と為り、其獣行翁の死後には単に子孫に病質を遺して其身体を虚弱ならしむるのみならず、不徳の悪風も亦共に遺伝して、家人和合の幸福は固・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・て内行の正邪は深く咎めざるのみならず、文化文政の頃に至りては治世の極度、儒もまた浮文に流れて洒落放胆を事とし、殊に三都の如きはその最も甚だしきものにして、儒者文人の叢淵即ち不品行家の巣窟とも名づくべき悪風を成し、遂に徳川を終わりて明治の新世・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・東洋にばかり根を張ったとされる牢のような家族制度、又は、男尊女卑の悪風は、時と云う偉大な裁きてが、順次に枯す根なら枯してくれます。女性の職業的困難がそれ等に関っているばかりであるなら、忍耐さえ知っていれば、自然に解決されると云っても誇張では・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫