・・・ 劇場は上演を通して観衆の、オブローモフ主義、色情狂、悲観主義に対して闘おうとする意志を強める役に立つような仕事をやらなければならない。」 ソヴェトは劇場の数でベルリンやニューヨークより劣っているとしても、観衆の質は全然違う。ソヴェ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・一時、私は同性間の友情に、随分悲観的な見方をしたことがあった。女学校時分に相当親しかった友達などでも、だんだん時が経ち、生活の様子が異って来ると、どうもぴったり心が喰い合わない。正直なことをいうと感情を害し、自己の生活などを全然客観し得ない・・・ 宮本百合子 「大切な芽」
・・・そんな人がひょっと人から自分のわるい評判をきいたり、笑われたのをきいたりしようものなら、にが虫を百疋かみつぶしながら蜂にさされて泥をぶつけられたようなかおして悲観してしまう。自惚のつよい人ほど悲かんの程度が強い人だろうと私は思う。 ・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・少し悲観。部屋を、直ぐ横の六畳二つにして貰う。 実に、すばらしい天気。碧い空、日光を吸って居る暖かそうな錆金色の枯草山、その枯草まじりに、鮮やかに紅葉したまま散りもせぬ蔦類。細かく風にそよぐ竹藪、蒼々とした杉木立、柑橘類、大島椿。伊豆は・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
・・・近頃、健康が勝れないと云う稍々悲観した手紙を受取って居たので、三月には、二人でお訪ねしましょうと云う事が正月頃から懸案に成って居たのである。「去年も今頃だったろう、あれは幾日位だったろうかな 少し暇のある夕飯後など、彼等は、小さい一・・・ 宮本百合子 「われらの家」
・・・お母あ様程には、秀麿の健康状態に就いて悲観していない父の子爵が、いつだったか食事の時息子を顧みて、「一肚皮時宜に合わずかな」と云って、意味ありげに笑った。秀麿は例の笑を顔に湛えて、「僕は不平家ではありません」と答えた。どうもお父う様はこっち・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・そしてその欲動のゆえに自己を悲観し自己を鞭うつ。 私の考えでは、私の夢想するファウストは私の愛がゾシマのように深くならなくてはとても書けそうにない。今の私の愛は愛と呼ぶにはあまりに弱い。私はまだ愛するものの罪を完全には許し得ないのである・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・ かくのごとく一二の例外を除いて現代の道徳はすべて混沌、すべて闇濁、最も悲観すべき半面を有す。文明の発達に従いて肉の欲望はますます大となり、虚栄の渇仰はいよいよ強となる。吾人は浅薄なる皮相の下に真精神を発見したい。時代思潮に革命を起こし・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫