・・・ 警視庁で全市の警察から情報をあつめているのだ。 丁度上野でデモが解散という刻限、朝から晴れていた空が驟雨模様になって来た。「こりゃふるね」「同じふるなら、早くたのみますね」 かわりがわり本気で窓から空模様をうかがってい・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・中共勝利とともに国内に流布した中共関係の文書の中には、かつて特務機関として奥地の情報を集めていた文書があり、獄中で検事局からの諮問に答えて上申した文書がある。それらは、侵略国日本が中国人民と中共からかすめとった収奪物でなくて何だろう。注意ぶ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・天皇の名によって行われていたスパイと憲兵の絶対的な軍国主義権力が崩れて三年四年たってみると、情報局の報道と大本営発表でかためられた偽りの壁と封印の跡が、あたらしい回想と、そこに湧く批判の真実に消されはじめた。一九四五年の秋「君たちは話すこと・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・もしかりに、漠然と公安を乱すおそれがある出版物はとりしまるというような新取締法をつくったならば、政府はよろこび勇んで、政府を批判し彼らの良心を眼覚めさすすべての出版物を禁止しはじめるであろう。情報局が戦時中すべての戦争反対の言論を禁止したよ・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・天羽英二は情報局長としてあんなに人民の言論と思想、文化の自由を根こそぎ刈った。 これらの戦犯的分子がまた再びわれわれの生活へまぎれ込んで来たことについて抗議したことは、投書のようにあしたになると友達に話すこともできず「一つ一つと逃げてゆ・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・テラス、ロマンス類が、もとの軍情報部に働いていた人をやとい入れて、戦時秘史だの反民主的な雰囲気を匂わせはじめると、その風潮は無差別にぱっとひろがって二・二六事件記事の合理化された更生から文学にまで波及し「軍艦大和」のように問題となる作品をう・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・今日の日本のインテリゲンツィアのいじめつけられた病的な思考力は、文化・文学にたいする政治の優位という言葉そのものをさえ、情報局的本質にしかのみこまない。自身の生きる人民階級の歴史的達成の方向・方法のうちに包含される人間の社会現象としての文学・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 産別会議情報宣伝部が編輯し、出版した『官憲の暴行』という戦後労働運動弾圧の記録がある。現場の労働者によってかかれたらしいこの記録が、もっと各現場組合の文学的能力を生かしていたら、どんなに浸透的で永続する読後感を一般の読者に印象づけるこ・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・世界の声のきける短波のラジオは使用禁止され、ラジオは軍部、情報局のさしずどおり、一九四五年八月のあと、大部分が虚偽であったとわかった大本営発表を叫びつづけていた。母子の愛情、夫婦や愛人同士の愛や希望や計画などは、ほんとに口に出すことの許され・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・ 平野氏は、この数年来、民主主義文学を語るとき、小林多喜二を語るとき、党について語るとき、一種の圧迫的なコンプレックスから身をほごしかねている。情報局につとめていたことは、まのあたり平野氏に、天皇制と軍国主義の至上命令の兇猛さを示しつづ・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
出典:青空文庫