・・・うたわれている妻なるひとが、どんなにまめやかであり、自然なこころもちの婦人であるかということや、独特の夫妻としてのつながりのうちに、微妙な情愛のゆきかいのあることなどが、しみじみと感じとられます。夫婦が、たすけあって畑仕事をしたりしていると・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・ 狭く一つ洞の中で互いを暖め合う男女の一組としての睦しさだけでは、云わば最も生物らしい情愛さえ保てない時代になっている。今日の若い良人と妻とは、歴史が私たちにめぐり合わせているこの地球全体の動乱から自分たちの結婚生活が影響されないと思っ・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・聰明で教養も深い両親の御秘蔵っ子としてのマーニャは、いつも家庭のたっぷりした情愛につつまれて幼い時代を過したけれども、小学生になる頃からは、もうポーランドという国が蒙っていた昔の露帝の圧迫のわけまえをになって、教室で意地わるい視学の問いに、・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・の生活に窮しつつ猶組合の工場へ入って一人の労働者として働くことを肯じがたい心持の失望と苦悩、そういう久作の昔気質の職人肌なものの考えかたは女房友代への態度にも発揮されて最後にその久作も情勢の圧力と妻の情愛、仲間たちのさしのばす手、情理をわき・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・ 精密な、そして情愛にみちた一つの仕事がここに提示されていると思う。これは、とくにこの戦争以来、私たちの精神をいためつづけてきた暴力によってつくられた、われわれの内部的な抗議の自意識へ固執する癖、という複雑な社会史的コムプレックスをとり・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・父と私との実に充実した情愛を包む各瞬間をして益光彩あり透明不壊であるように生きましょう。私は父との永訣によって心に与えられた悲しみを貫く歓喜の響の複雑さ、美しさに就て、文字で書きつくされないものを感じて居ります。其は音楽です。パセティークな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・等が一般に文学の情愛とでも云うようなもので迎えられたことは、これらの作家それぞれ独特の文学の境地と美と云われるものの性質とをもっているからである。が、特にその芸術におけるリアリティーの境地や美感が、所謂科学的な要素を全く含んでいないで、現と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・それは、論ぜられているそのことが、論として読者である私を承服させるというばかりでなく、一つ一つと読み深めてゆくにつれて私のなかの作家としての心が目醒され、ヒントをうけ、身じろぎを始めて文学への情愛を一層しみじみと抱き直すような感情におかれた・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ 自分たちの国からこしらえてやるものとしての情愛が、試写会に来ているあらゆる人々の胸底にめざまされてゆくような、そういう感情へのアッピールは、挨拶の言葉の中からも作品の世界からも迸って来なかった。 或るドイツの人が、「日本の女性」を・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・そういう時の、父の老いたが若々しい光のある顔は、美術品に対する無私な情愛というようなものに溢れており、娘の私の心をうごかしたものでした。 没する数年前、久しぶりでロンドンへ再遊しましたが、そのときの旅行の目的は父自身の愉しみが主眼ではな・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
出典:青空文庫