・・・ それ故に、課外の情操教育や、乃至人格を造る上に役立つ教化は学校教育と併行して奨励されなければならぬ急務に迫られています。児童を中心とする文学は、それ自からの中に児童の世界を展開し、生活し、観察し、思考することより描かれたものでなければ・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・そして、かゝる情操の素因をつくるものこそ、実に文芸の使命であり、人格的教育のたまものと考えています。殊に、文芸の必要なるべきは、少年期の間であって、すでに成人に達すれば、娯楽として文芸を求むるにすぎません。しからざれば、趣味としてにとゞまり・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ハートゥレイによれば道徳的情操は、他の高尚な諸感情とともに、感覚に伴う快、不快の念から連想作用によって発生したものである。彼は同情も、仁愛も利己的な快、不快の感から導き出した。初めは快、不快な結果を好悪する心から徳、不徳を好悪したのだが、広・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 私の青春の悩みと憧憬と宗教的情操とがいっぱいにあの中に盛られている。うるおいと感傷との豊かな点では私はまれな作品だろうと思う。あれをセンチメンタルだと評する人もあるが、あの中には「運命に毀たれぬ確かなもの」を追求しようとする強い意志が・・・ 倉田百三 「『出家とその弟子』の追憶」
・・・次に二重奏連句の二人の作者が、もしその性格、情操、趣味等において互いに共通な点を多分にもっている場合には、句々の応酬はきわめて平滑に進行し、従って制作中のその二人の作者自身の心持ちはきわめて愉快に経過するのであるが、できあがったものを「連句・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・この理想に対する情のもっとも著しきものを称して美的情操と云います。(実は美的理想以外にもいろいろな理想が起る訳であります。あるいは一種の関係に突兀と云う名を与え、あるいは他種の関係に飄逸と云う名を与えて、突兀的情操、飄逸的情操と云うのを作っ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・それは詩の情操の中に含蓄された暗示であり、象徴であり、余韻である。したがつてニイチェの善き理解者は、学者や思想家の側にすくなくして、いつも却つて詩人や文学者の側に多いのである。 近代の文学者の中で、ニイチェほど大きく、且つ多方面に影・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・詩は波、揺らぐ日かげ理性は潜んで、静かにとける情操から陽炎のように思いが きで燃え立つのだ。けれども、小説は、全く一面の努力頭を整え、思いをただし、運命の神のように我を失わず、描く人間の運命を支配しなけれ・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・アグネスの不幸は、環境から性的なものを最も素朴な発動の形で男女の関係の間に知っていて、しかも彼女が人間としてより自由な、より豊富な情操の発展として愛を望むと、その方向には既成社会が、貧困、無智、過労とともに下層階級の女の肩に一際重くなげかけ・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・ 知識を合理的に発達させる社会、情操を自由に伸びさせる社会、それは社会主義組織の社会です。そして婦人の幸福は社会主義社会に於てのみ生れます。 このことは文学に就いても同じです。プロレタリア文学の正しい発展は、歴史的発展と共に有り、社・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
出典:青空文庫