・・・これは惜しむべきことであるかもしれないが、あるいはやみがたい自然の現象であるかもしれない。一面から見れば両者が往々この弱点を暴露してそれがために生ずる結果の利害を顧慮するいとまがないという事が少なくとも両者に共通な真剣な熱情を表明するのであ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・これは惜しむべきことである。 文章と科学「甲某の論文は内容はいいが文章が下手で晦渋でよくわからない」というような批評を耳にすることがしばしばある。はたしてそういうことが実際にありうるかどうか自分にははなはだ疑わしい。・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・この種の人は正式の教育を受けない独創的気分の勝った人に往々見受ける事で甚だ惜しむべき事である。とにかく簡単なことについて歴史的に教えることも幾分加味した方が有益だと確信するのである。 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
・・・するとおおぜいの人々は、降りる人を待つだけの時間さえ惜しむように先を争って乗り込む。あたかも、もうそれかぎりで、あとから来る電車は永久にないかのように争って乗り込むのである。しかしこういう場合にはほとんどきまったように、第二第三の電車が、時・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・しかるに現代の日本ではただ天恵の享楽にのみ夢中になって天災の回避のほうを全然忘れているように見えるのはまことに惜しむべきことと思われる。 以上きわめて概括的に日本の自然の特異性について考察したつもりである。それで次にかくのごとき自然にい・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・そうして骨身を惜しむ事を知らないし、油を売る事をしらなかったせいであろう。 自分は彼女の忠実さに迷惑を感ずる事も少なくなかった。かまわないで打っちゃっておいてもらいたい事を決してそうはしてくれなかった。つまり二つの種類のちがったイーゴイ・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・を薄くする可らず、其極めて多言なる者は必ず家族親類風波の基なれば速に追出す可し、都て卑しき者を使うには我意に叶わぬことも少なからず、漫りに立腹することなく能く言教えて使う可し、与え恵む可き事あらば財を惜しむ可らず、但し私に偏して猥りに与う可・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・啻に氏の私の為めに惜しむのみならず、士人社会風教の為めに深く悲しむべきところのものなり。 また勝氏と同時に榎本武揚なる人あり。これまた序ながら一言せざるを得ず。この人は幕府の末年に勝氏と意見を異にし、飽くまでも徳川の政府を維持せんとして・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・余は日本の美術文学のために惜しむ。 春風馬堤曲とは俳句やら漢詩やら何やら交ぜこぜにものしたる蕪村の長篇にして、蕪村を見るにはこよなく便となるものなり。俳句以外に蕪村の文学として見るべきものもこれのみ。蕪村の熱情を現わしたるものもこれのみ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・とか、「我が身命を愛さず唯惜しむ無上道」とか、「得意淡然失意泰然」とかいう辞句は時利あらず、いかような羽目にたちいたろうともわがこころに愧じるところなく、確信ゆるがずという文句である。「あら尊と音なく散りし桜花」という東條英機の芭蕉もじりの・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
出典:青空文庫