・・・しかしまた一方からいうと、木の実というばかりでは、広い意味に取っても、覆盆子や葡萄などは這入らぬ。其処で木の実、草の実と並べていわねば完全せぬわけになる。この点では、くだものといえばかえって覆盆子も葡萄もこめられるわけになる。くだもの類を東・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・どういう意味かな。木にとりつくと弾ね返ってうしろのものを叩くというのだろうか。光って木がはねかえる。おれはそんなことをしたかな。いやそれはもうよく気をつけたんだ。藪だ。もじゃもじゃしている。大内はよくあるく。崖だ。滝はすぐそこだし、・・・ 宮沢賢治 「台川」
日本の民主化と云うことは実に無限の意味と展望を持っている。 特に一つ社会の枠内で、これまで、より負担の多い、より忍従の生活を強いられて来た勤労大衆、婦人、青少年の生活は、社会が、封建的な桎梏から自由になって民主化すると・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ 木村は悪い意味でジレッタントだと云われているだけに、そんな目に逢って、面白くもない物を読まないでも、生活していられる。兎に角この一山を退治ることは当分御免を蒙りたいと思って、用箪笥の上へ移したのである。 書いたら長くなったが、これ・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・平凡な詞に、発音で特別な意味を持たせることも出来ます。あの時あなたわたくしに「どうです」とそうおっしゃいましたね。御挨拶も大した御挨拶ですが、場所が場所でしたわね。わたくしは「結構」と御返事いたしました。窓硝子はがちゃがちゃ云う。車輸はがら・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・それは如上の意味の感覚的印象批評である以上、如上の意味で分らないものには分らないのが当然のことである。なぜなら、それらの人々は感覚と云う言葉について不分明であったか若くは感覚について夫々の独断的解釈を解放することが不可能であったか、或いは私・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・こう云いさして、大層意味ありげに詞を切って、外の事を話し出した。なんだかエルリングの事は、食卓なんぞで、笑談半分には話されないとでも思うらしく見えた。 食事が済んだ時、それまで公爵夫人ででもあるように、一座の首席を占めていたおばさんが、・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そしてその意味は分からない。 事によったらこの壁に沿うている腰懸の上の大勢の旅人のうちで、誰かがあの女の詞の意味を解するかも知れぬ。兎に角自分には分からない。そしてその分からない物語をする女がこわくなるのである。 フィンクはそっと立・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・自分の運命を信じて、今に見ろ今に見ろと言いながら努力する事は、自分に対していいのみならず、自分の愛する人々を力づけ幸福にする意味で、他人のためにもいい事です。どこまで行けるかなどという事はこの場合問題ではありません。 ただ私はこの運命の・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫