・・・そこには、娘が年を重ね生活の経験を深めるにつれて、いよいよ思いやりをふかめずにいられなくなるような、若々しくしかも老年の思慮にみちた父のある情感、感懐が花や森や猟人に象徴して語られているのである。〔一九四一年四月〕・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
・・・にしろ、やはり『若菜集』に集められた詩と同じく、自然は作者の主観的な感懐の対象とされている。移りゆき、過ぎゆく自然の姿をいたむ心が抽象的にうたわれているのである。『夏草』には、前の二つの詩集とちがった要素を加えて自然がうたわれ初めている・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ああいう奇妙な常識をはずれた区わけをしたのは、憤りより寧ろ憂いに近い感懐を抱かせたと思う。あれはどうなったのだろう。あれときょうとの間に、どんな健全な経過が辿られたのだろうか。誰しもが知りたいところであろうと思う。 一つの国で、紙の・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・ 国民の文学という場合、自身の雄壮を自身の耳に向ってうたう感懐に立ったロマンティシズムのほかに、国民の日々の生活が刻んでいる像を、あらゆる真実の姿でうけいれ、創り出してゆく旺んな創造力の発動にたえるだけに、日本の雄壮な精神も成熟して来て・・・ 宮本百合子 「文学は常に具体的」
出典:青空文庫