・・・ 須利耶さまがお従弟さまに仰っしゃるには、お前もさような慰みの殺生を、もういい加減やめたらどうだと、斯うでございました。 ところが従弟の方が、まるですげなく、やめられないと、ご返事です。(お前はずいぶんむごいやつだ、お前の傷めた・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・ アインシュタインは、世界に卓越した現世紀の大科学者の一人であり、慰みに弾くヴァイオリンは聴く人の心を魅するそうだが、何年か前書いた感想の中に、忘られない文句があった。この科学者は「私は婦人が高度な知能活動に適するとは思わない」という意・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・どんなに税が高くあろうとも妻や妹はウビガンの香水を常用しているという部分の人々にはどういう感じをおこさせるかしらないが、都会の人口の大多数を占める下級中級の若いサラリーマン、勤労青年たちが、いささかの慰みとしてアパートの部屋でかけて聴いてい・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・本当に私一人の慰みのためにという表現で女のひとが、自分の余技、仕事を語る。特に日本ではそれが一つの謙譲なたしなみのようにさえ見られて来た習慣があるけれども、そういう慣習こそ、わるい意味で女の仕事を中途半端なものにしてしまっていると思います。・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・だが、慰みと、文学への欲求とは、一つのものであるだろうか。 もとより、めのこ算用で、部分品の全部がくみ合わさった状態における人間を考えたり、それを描いたりすることは、現代の複雑な社会機構の中では不可能である。けれども、それぞれの部分品が・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・何にも慰みのない祖母は東京から送ってよこすお菓子を来る者毎に少しずつ分けてやって珍らしい御菓子だと云って喜ぶのを見るのを楽しみにして居る。田舎は時間と云う考が少ないのでいつと云う限りなしに来ても来ないでも同じ様な者が沢山来るのでその度毎に出・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ただ慰みのためにするものなのだ。」本の中にはゴーリキイにとって忘れ得ぬスムールイのように獣的な粗野なものと優しさとの混りあった人物は出て来ない。本に描かれている多くの主人、司祭は、実際のものといつもきっと、どこか違う。―― 指導してのな・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・水禽が人々の慰みのためキラキラ水玉をころがして羽ばたきをしたりくちばしで泥から餌をあさったりしている。 ヴィクトリア公園で池は狭い。一寸行くとボートは島みたいなものにぶつかったり、橋げたにすいつく。それでも、市大会社の腰高椅子や卸問屋の・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫