・・・三時間に亙って懇切に私の質問に答えたり、書庫を見せられたりした。書庫には、出島和蘭屋敷の絵巻物、対支貿易に使用された信牌、航海図、きりしたんころびに関する書つけ、シーボルトの遺物、フェートン号の航海日誌、羅馬綴の日本語にラテン語を混えた独特・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・今日、ともかく婦人の間に読書の風がひろまりつつあるとすれば、その習慣はもっとも懇切な努力でさらにより意味のある本の選択や、いくらか系統だった読書への趣向の方向へ育てまもられてゆかなければならないだろう。読書にたいする日本の婦人の生育の過程は・・・ 宮本百合子 「婦人の読書」
・・・もう一歩迫って、文学的に見ると、この作者の持つ文章の平明さは、鮮明な描写によって読者の心にひき起される立体的な溌剌たる形象の鮮やかさではなくて、懇切に作者の思惑を読者に向って説き聞かせる説明的文章の納得し易さである。文学的な香気というものは・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫