・・・ 宗俊の語の中にあるものは懇請の情ばかりではない、お坊主と云う階級があらゆる大名に対して持っている、威嚇の意も籠っている。煩雑な典故を尚んだ、殿中では、天下の侯伯も、お坊主の指導に従わなければならない。斉広には一方にそう云う弱みがあった・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・ 巳の時の夫人には、後日の引見を懇請して、二人は深く礼した。 そのまま、沼津に向って、車は白鱗青蛇の背を馳せた。大正十五年十月 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・則ち説いて曰くと、これは疾翔大力さまが、爾迦夷上人のご懇請によって、直ちに説法をなされたと斯うじゃ。汝等審に諸の悪業を作ると。汝等というは、元来はわれわれ梟や鵄などに対して申さるるのじゃが、ご本意は梟にあるのじゃ、あとのご文の罪相を拝するに・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫