・・・…… しかし正純は返事をせずに、やはり次ぎの間に控えていた成瀬隼人正正成や土井大炊頭利勝へ問わず語りに話しかけた。「とかく人と申すものは年をとるに従って情ばかり剛くなるものと聞いております。大御所ほどの弓取もやはりこれだけは下々のも・・・ 芥川竜之介 「古千屋」
成瀬君 君に別れてから、もう一月の余になる。早いものだ。この分では、存外容易に、君と僕らとを隔てる五、六年が、すぎ去ってしまうかもしれない。 君が横浜を出帆した日、銅鑼が鳴って、見送りに来た連中が、皆、梯子伝いに、・・・ 芥川竜之介 「出帆」
・・・ 家へ帰ったら、留守に来た手紙の中に成瀬のがまじっている。紐育は暑いから、加奈陀へ行くと書いてある。それを読んでいると久しぶりで成瀬と一しょにあげ足のとりっくらでもしたくなった。 二十九日 朝から午少し前まで、仕事をしたら、・・・ 芥川竜之介 「田端日記」
・・・学校そのもの、女学生そのものについて、いい感じはなかった。成瀬氏の伝統で、「天才」だの「才能」だの美辞は横溢しているくせに、級の幹事が、ここで女教師代用で、髪形のことや何かこせこせした型をおしつけた。その頃の目白は、大学という名ばかりで、学・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・ 目白の女子大学には、まだ成瀬校長が存命であって、私が英文予科の一年に入ったときは、ゴチックまがいの講堂で一人一人前へ出て画帳のようなものへ毛筆で何か文句を書かされたりした。私は大変本気な顔つきで、求めよ、さらば与へられん、という字を書・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・ 先生が京都で講義せられていたときのことを後に成瀬無極氏から聞いたことがある。成瀬氏は大学卒業後まだ間のないころであったが、すでにドイツ文学の講師となっており、同僚の立場から先生を見ることができたのである。氏によると、先生は非常にきちょ・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫