・・・又如何に其等が群をなして飛んで来ようと、端然と己を持して居られる丈の自らの力の成育を希うべきであろうか。 自分は後者であり度く思う。ありたく思うのみならず、そう努力して行こうと心に思い定めて居る。 総ての事物に、合一される事が無くな・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
一 大正年代は、日本の文学界にもヨーロッパ大戦後の世界を洗いはじめたさまざまの文学的動きを、日本独特の土壤の上に成育させながら、極めて複雑な形で昭和に歩み進んだ。 ヨーロッパ大戦後の、万人の福・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・社会的勤労において男対女としての権利を認めるばかりでなく、社会全体のより健全な成育のために勤労の場面で母性が無視されていることから生じる深刻な不幸をとりのぞきたいという真摯な願望が燃えているのである。 昭和十二年七月に事変が勃発してから・・・ 宮本百合子 「女性の現実」
・・・ 少年の感情の世界にひそかな駭きをもって女性というものが現れた刹那から、人生の伴侶としての女性を選択するまでには成育の機変転を経るわけである。感情の内容は徐々に高められて豊富になって行くのだから、いきなり恋愛と結婚とをつなぎ止めてしまう・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・なみなみならぬ犠牲をはらって到達しつつある歴史の成育の過程として高く評価されるべきものがある。そこに輝やかしきものの源泉があることは当然であるが、それが泉であればあるほど、泉の周囲に生える毒草や飛びこむ害虫がとりのぞかれなければならないのも・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・無自覚でするコケティッシュな浮々さが沈み、真個に延るべきものが、ぐんぐん成育するに違いないと信じて居たから、自分は、怯じて居られなかった。 今、恐らく一生、自分は此反省の誤って居なかったことを感謝し得るだろう。 九月三日に引移って以・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・昨今の複雑な中国の動きの間に、芸術家としての彼女は更にどう成育して行くであろうかということに甚大な関心がもたれる。東は東、西は西と云う考えをもちつつも、バックは西の心で東を見ているのではない。彼女は、東の心で西へ向って、東は東と云っている。・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・それは疑いもない過去の宝であるけれど、例えば今日の日本に見られる文学と科学との関係のありかたなどを細かに観察すると、それがまだ文化の成育の最も望ましい開花であると迄は云切れないような段階にあるのではないだろうか。「北極飛行」のなかで、こ・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・今日までの日本文学の歴史と、その歴史の中にあって成育して来た自分たち作家一人一人の文学業績の内部から追求した発展の足どりとして、それ等の所感は書かれていなかった。いずれも、時代の急転を切迫して肌に感じ、作家も今までのようにしている時代ではな・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・ この生活環境の特徴的な事情は、十三歳頃のゴーリキイの成育の中に微妙な反映を与えている。「人々の中」で朝から夜までこき使われる者、理由もなく殴られ得る下積の存在として、天質の豪気さ、敏感さ、熟考的な傾向と共に、少年ゴーリキイの生活及び人・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫