・・・三十七年もの間生活をともにして来た妻を失った空虚の感じを、父が突然の衝撃として受けないよう、母が今生涯を終ったのは万全をつくした上でのさけがたいことであって、このほかに在りようのなかった成行きであると思うようにと、謂わば私のとり乱さない態度・・・ 宮本百合子 「母」
・・・ 二 家賃 おそろしい住宅難の折から、きのうきょう厚生省と警視庁との意見にくいちがいが示されている適正家賃算出法の問題は、日本全国の借家人が注意をあつめて成行きを案じていることがらだと思う。 日本全国の人口・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・老人が役所を出ずるや、人々はその周囲を取り囲んでおもしろ半分、嘲弄半分、まじめ半分で事の成り行きを尋ねた。しかしたれもかれのために怒ってくれるものはなかった。そこでかれは糸の一条を語りはじめた。たれも信ずるものがない、みんな笑った。かれは道・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・承れば御一家のお成行き気の毒千万である。しかし上の御政道に対してかれこれ言うことは出来ない。ただ権兵衛殿に死を賜わるとなったら、きっと御助命を願って進ぜよう。ことに権兵衛殿はすでに髻を払われてみれば、桑門同様の身の上である。御助命だけはいか・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫