・・・だとわかったかと云うと、「上人の祈祷された時、その和郎も恭しく祈祷した」ので、フランシスの方から話をしかけたのだそうである。所が、話して見ると、どうも普通の人間ではない。話すことと云い、話し振りと云い、その頃東洋へ浮浪して来た冒険家や旅行者・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・帳場の和郎(彼れは所きらわず唾が寝言べこく暇に、俺ら親方と膝つきあわして話して見せるかんな。白痴奴。俺らが事誰れ知るもんで。汝ゃ可愛いぞ。心から可愛いぞ。宜し。宜し。汝ゃこれ嫌いでなかんべさ」といいながら懐から折木に包んだ大福を取出して・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
私が正月号の改造に発表した「宣言一つ」について、広津和郎氏が時事紙上に意見を発表された。それについて、お答えする。 広津氏は、芸術は超階級的超時代的な要素を持っているもので、よい芸術は、いかなる階級の人にも訴える力を持・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・ 僕の感想文に対してまっ先に抗議を与えられたのは広津和郎氏と中村星湖氏とであったと記憶する。中村氏に対しては格別答弁はしなかったが、広津氏に対してはすぐに答えておいた。その後になって現われた批評には堺利彦氏と片山伸氏とのがある。また三上・・・ 有島武郎 「片信」
・・・――「和郎はの。」「三里離れた処でしゅ。――国境の、水溜りのものでございまっしゅ。」「ほ、ほ、印旛沼、手賀沼の一族でそうろよな、様子を見ればの。」「赤沼の若いもの、三郎でっしゅ。」「河童衆、ようござった。さて、あれで見れ・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・三の烏 なぞとな、お二めが、体の可い事を吐す癖に、朝烏の、朝桜、朝露の、朝風で、朝飯を急ぐ和郎だ。何だ、仇花なりとも、美しく咲かしておけば可い事だ。からからからと笑わせるな。お互にここに何している。その虹の散るのを待って、やがて食おう、・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・自己放棄の道を通ってさえも秋声は常に動く人生の中に自分をおいて、ともに動いて自分を固定させなかったということを秋声短論の中で広津和郎氏が云っているのは、秋声の根本の特色をとらえていると思う。 秋声は、ほんとうに自分を生きながら記念像とし・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ 私小説を否定しながら、純文学を語るこれらの人々は、広津和郎の「ひさとその女友達」に対する林房雄の評を見てもわかるように、政治臭をきらうことで共通している。中間小説が、社会小説であり得ないこの派の作家たちの本質に立って。 しかしなが・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・一田福次の出現の文学上の血脈は『はたらく一家』という短篇集に広津和郎氏の序文がつけられてある、それらのことと切りはなせないものだろう。 今日、作家のより社会的な成長が云われるとき、めいめいが自身のコムプレックスについて、謙遜にかつ熱く考・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 広津和郎氏の「歴史と歴史との間」の主人公にしろ、この間の丹羽文雄氏の作品「怒濤」にしろ、主人公はみんな年とっている。それもただの爺さんというのではなくて、一ひねりもふたひねりをもして人生に生き経た年よりで「怒濤」では、我から示す老いさ・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
出典:青空文庫