・・・役人は彼等を縛めた後、代官の屋敷へ引き立てて行った。が、彼等はその途中も、暗夜の風に吹かれながら、御降誕の祈祷を誦しつづけた。「べれんの国にお生まれなされたおん若君様、今はいずこにましますか? おん讃め尊め給え。」 悪魔は彼等の捕わ・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・神父はほとんどのしかかるように鬚だらけの顔を突き出しながら、一生懸命にこう戒め続けた。「まことの神をお信じなさい。まことの神はジュデアの国、ベレンの里にお生まれになったジェズス・キリストばかりです。そのほかに神はありません。あると思うの・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・そう云う時には、互に警め合って、誰も彼の側へ近づくものがない。 発狂――こう云う怖れは、修理自身にもあった。周囲が、それを感じていたのは云うまでもない。修理は勿論、この周囲の持っている怖れには反感を抱いている。しかし彼自身の感ずる怖れに・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・という鉄冠子の戒めの言葉です。そこで唯頭を垂れたまま、唖のように黙っていました。すると閻魔大王は、持っていた鉄の笏を挙げて、顔中の鬚を逆立てながら、「その方はここをどこだと思う? 速に返答をすれば好し、さもなければ時を移さず、地獄の呵責・・・ 芥川竜之介 「杜子春」
・・・ すると、恰も私のその油断を戒めでもするように、第二の私は、再び私の前に現れました。 これは一月の十七日、丁度木曜日の正午近くの事でございます。その日私は学校に居りますと、突然旧友の一人が訪ねて参りましたので、幸い午後からは授業の時・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・其の間に白帽白衣の警官が立ち交って、戒め顔に佩劔を撫で廻して居る。舳に眼をやるとイフヒムが居た。とぐろを巻いた大繩の上に腰を下して、両手を後方で組み合せて、頭をよせかけたまま眠って居るらしい。ヤコフ・イリイッチはと見ると一人おいた私の隣りに・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・…… そこで、急いで我が屋へ帰って、不断、常住、無益な殺生を、するな、なせそと戒める、古女房の老巫女に、しおしおと、青くなって次第を話して、……その筋へなのって出るのに、すぐに梁へ掛けたそうに褌をしめなおすと、梓の弓を看板に掛けて家業に・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・なお窺うよしして、花と葉の茂夫人 人形使 (猿轡のまま蝙蝠傘を横に、縦に十文字に人形を背負い、うしろ手に人形の竹を持ちたる手を、その縄にて縛められつつ出づ。肩を落し、首を垂れ、屠所に赴くもののごとし。しかも酔える足どり、よたよたとし・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 三 蝦蟇法師がお通に意あるが如き素振を認めたる連中は、これをお通が召使の老媼に語りて、且つ戯れ、且つ戒めぬ。 毎夕納涼台に集る輩は、喋々しく蝦蟇法師の噂をなして、何者にまれ乞食僧の昼間の住家を探り出だして、・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・ 翌日、真吉は、東京へ着くと、すぐにお店に帰って、昨日からのことを正直に主人に話しますと、主人は、真吉の孝心の深いのに感歎しましたが、感情に委せて、考えなしのことをしてはならぬと、この後のことを戒めました。 真吉は、大きくなってから・・・ 小川未明 「真吉とお母さん」
出典:青空文庫