・・・それはラテン語の詩句や、歴史の年代、或いは数学の与件を、大声で云って見ずにはいられない子供たちの声なのである」その騒々しいなかでも、一旦或ることに注意をあつめたら最後、マーニャの気を外へ散らすということは、どんないたずら巧者の姉たちの腕にも・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 各支部が指導する文学サークルに、現在婦人サークル員は何人いるか、国際婦人デーを機会として、各支部は特にその地方の種々な企業の中にある婦人大衆を精力的に文学サークル、或いは文化サークルに組織しなければならぬ。そしてサークルから段々婦人の・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・ わたしの心理に近代的コンプレックスが見られないということが、あき足りなさとしてしばしば云われる。或いはいくらか嘲弄的にもふれられる。ある読者からフロイドをどう考えるか、という質問もあった。 わたしの生活と文学との通って来た特別な道・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・多くの人々の上に、その作品と他の面での市民的意思表示との間の発展的な矛盾があらわれている。或いはあれとこれとの間にある距離があらわれている。鎌倉で「平和を守る会」が発足した時、川端康成のよんだ平和宣言は人々の心を打った。「絵志野」とあの文章・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・けれども、その美しさにしろたのしさにしろ、その民族或いはその人々が実際には半ば奴隷の立場に甘んじていて、自分の民族の独立や世界の平和のために良心的な何の発言も行動もなし得ないほど無気力であったなら、その固有の服装が優美であり、みものになると・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・これから結婚しようとしている人、もうじき結婚をするような運びになっていた人、或いはもう婚約がある人々、そういう人たちが、急な境遇の変化で、対手の男を前線へ送らなければならないような事情がどっさりおこった。 既に結婚していれば、それがたと・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・それは男性なれば極端な性欲或いは愛の葛藤も書け、そしてそれが批判される場合も、女性によって書かれたもの程つまらない好奇心を起させますまい。勿論、芸術品に対してそんな下劣な観賞者の言葉を気にする必要はないわけですが、この懸念が実際に女の心の中・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・ われわれの問題は、文学と云うものが、此の資本主義を壊滅さすべき武器となるべき筈のものであるか、或いは文学と云うものが、資本主義とマルキシズムとの対立を、一つの現実的事実として眺むべきか、と云う二つの問題である。 更に此の問・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・なぜなら、それらの人々は感覚と云う言葉について不分明であったか若くは感覚について夫々の独断的解釈を解放することが不可能であったか、或いは私自身の感覚観がより独断的なものであったかのいずれかにちがいなかったからである。だが、今の所、「分らない・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・作品の美しさ或いは意味が感じられず、そうしてそれが感じられない場合に他になんの魅力もないとすれば、公衆はその作品からなんの影響もうけず、またただちにそれを捨て去るであろう。がしかしその作品の本来の美しさを感じないでも、なおそこに或る魅力を感・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫